除菌タイプじゃない消臭剤まで売り切れている謎
「魔族って大体魔力そのままぶっぱなせるのに魔術使う意味ってあるん?」
「いきなり私の得意分野を全否定するのはやめてもらおうか」
魔王様のおわす魔王城にて。
唐突に思いついたように言う魔王様と、流石に聞き逃せなかったのか即座に抗議するグラウゼさん。
ほとんどの創作では最終的に直接殴った方が強いからね。仕方ないね。
「確かに魔族の中の一部には魔術は弱者の小賢しい悪あがきだという風潮はある」
「あるんや」
「しかし逆に言えば弱者が強者に抗うことが可能になる技術だということだ。例えば魔王様が100の威力の衝撃波を放つのに必要な魔力が100だとする」
「100%変換とか効率ええなあ」
「私が魔術で100の威力の衝撃波を放とうと思えば50の魔力で済む」
「何それお得」
「……そうだな」
(諦めた!?)
魔力の話をしているのに商品の割引みたいな感想を返され、一瞬迷ったものの素直に肯定するグラウゼさんと内心でつっこむスケルトンさん。
魔王ガチ勢なせいかグラウゼさんの魔王様への対応が甘いです。
「逆に言えば私は魔術を使えば同じ魔力消費で魔王様の倍の威力の衝撃波を放てるわけだ。しかし私では逆立ちしても魔王様には勝てん。何故だと思う?」
「え? ……魔王特権で魔術無効化できるとか?」
「ある意味正解だ。私の魔術では魔王様を傷つけるのは難しい。何故なら私の魔力が千だとすれば、魔王様の魔力は十万はあるからだ」
「何その宇宙帝王並みのインフレ」
某龍玉探索な作品の戦闘力並みに跳ね上がった魔力に自分のことなのに呆れる魔王様。
ラスボスの代名詞な肩書背負ってるのは伊達ではありません。
「え? じゃあ私と張り合える勇ちゃんは何なん? 人間?」
「アレは対魔族用に装備やら術式を調整されている故に魔王様を倒せる可能性があるだけだ。仮に魔王様と対等な存在なら正面からぶつかり合った時点で魔界が消し飛ぶ」
「何それ恐い」
「え? もしかして私世界滅ぼせるん?」と今更自分という存在の危険性を認識し始めた魔王様。
そりゃ魔王様が停戦とか言い出しても信用する国が皆無にもなります。
「そういう意味で勇者という存在の本質は対魔王様の暗殺者。使い捨てにされることもある可能性を考えれば正に鉄砲玉と言って良い」
「あー勇ちゃん以外にも量産型の勇者が大量に来てたのってそういう。もうちょい優しくしてあげるべきかなあ」
異世界における勇者という存在の現実と世知辛さに、暗殺者送られてる立場なのも忘れてちょっと悲しくなってきた魔王様。
今日も魔界は平和です。
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一方高天原。
「もう五月も目前なのに寒くない?」
「暖冬だった反動のような気温ですね」
毛布にくるまって畳の上に転がっているアマテラス様と、寒いとは思っていても相変わらず背筋がピンと伸びてるツクヨミ様。
ちなみにこたつは季節の変化に合わせてメリハリをつけるべきだというツクヨミ様の方針により無慈悲に片付けられました。
「……ツクヨミが認めたということは気のせいじゃない!?」
「何ですかその基準は。東京都心に限って言えば四月に入って二十五日連続で10℃を下回るのは七十六年ぶりだそうですよ」
「冬じゃん。冬眠するしかなくない?」
「暖かいなら暖かいで暁覚えないでしょう姉上は」
そう言うツクヨミ様ですが、今の日本と世界の情勢を考えたら大人しく家で寝ていた方がいい気もします。
三密を避けましょうというのは三つの内一つでも欠けていればセーフというビンゴ形式ではありません。
「それに来週からは気温も上がって初夏の陽気だそうですよ」
「いきなり初夏とか暑いじゃん太陽加減しろ」
「むしろ夏が近付くにつれてボケを加速させるのやめませんか」
アンタ太陽神だろというお約束なつっこみをするのは諦めたらしいツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。