小学校に出たマムシが教頭に捕まってマムシ酒にされていた
「そういやこの山って竜王って親玉がいるんですよね。ドラゴン大量に殺されて怒ったりしないんですか?」
春のドラゴン大討伐も一段落つき野営地に戻ってきたところで、それまで死んだ目で機械的に歩いていたカオルさんが焚き火の前に腰を落ち着けたところでハッと気付いたように言います。
ちなみに持っていた槍はドラゴンつっついてたら見事に穂先が欠けたので、遠心力に物言わせてぶん殴るただの鈍器と化しました。
別に業物でも何でもない普通の槍だからね。仕方ないね。
「別にそういうことはないわね。実際に会っても別に報復に襲いかかってきたりはしないし」
「そもそもドラゴンたちに仲間意識があるのかも怪しいしな。あいつら普通に共食いするぞ」
「そうそう。だから討伐終わった後も死体の処理が大変なのよねえ」
「お疲れ様です」
実は討伐が終わった後も作業が残っていると聞き、そこまで付き合わされなくて良かったと内心でホッとするカオルさん。
自分で散らかしたんだから自分で片付けるべきな気もしますが、そもそもカオルさんの扱いは助っ人みたいなものなので、そこまでさせるのは悪いなと団長が珍しく気を使った結果だったりします。
「でもほっといたら勝手に土にかえるんじゃないですか?」
「そうするにはドラゴンの体がでかすぎるし数が多すぎるのよ。人里離れてるから衛生面はそんなに気にしないんだけど、さっきも言ったけどドラゴンって共食いするし、他の魔物が放置されたドラゴンの肉を食料にして数増やされるのも面倒なの」
「あー。ドラゴン減らしても魔物に餌提供したんじゃ意味ないですね」
ちなみに狩猟などで動物を捕獲した際も、生態系に軽微な影響しかないと判断される場合を除き、現地に一部でも放置するのは法律で禁止されていたりします。
生態系に影響がない範囲ってどれくらいかって?
……私にも分からん。
「そういえばゲームだとドラゴンの鱗で出来た装備とかありますけど、そういうの作れないんですか?」
「作れるけどコストが無駄にかかるから趣味の領域ね」
「夢が無ぇ!?」
ファンタジーな装備が現実的な理由で普及しないと聞き嘆くカオルさん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「え? 八岐大蛇って竜じゃなくて蛇じゃないの?」
「いえ確かに大蛇ではありますが」
自分の弟がころころしたのもドラゴンの仲間じゃないかと言われて、そうだっけと疑問を浮かべるアマテラス様。
ちなみに八岐大蛇と書かれているのは日本書紀の方で、古事記では八俣遠呂智と書かれています。
「正体には諸説ありますが、洪水や水害を象徴する竜神とされることが多いですね。生贄にされかけたクシナダヒメも稲田の女神とされていますし」
「ああそうだっけ。クシナダちゃんってスサノオに櫛にされたインパクトが大きすぎるから」
「それについては呪術的な意味合いがあるか、あるいは婚姻の暗示とされていますが」
「スサノオがそこまで考えてると思う?」
「思いません」
アマテラス様の問いに即答するツクヨミ様と、ある意味信頼されているスサノオ様。
ちなみに八岐大蛇の正体については、水に関連したものの他に製鉄技術を持った人間だったのではないかという説もあります。
「昔は日本でも蛇食べてたとこもあるけどさあ、八岐大蛇は流石のスサノオも食べてないよね」
「マムシ酒など酒につける習慣もありますが」
「あ……退治するときに酒で酔わせたのってもしかしてそういう」
一気に高まるスサノオ様実は八岐大蛇食ってた説。
ちなみに八岐大蛇の名を冠した日本酒もあったりしますが、イメージされているのは八岐大蛇に飲ませた方の酒であり八岐大蛇をつけこんでいるわけではありません。
「まあ自分の妻の姉たちを食べた怪物を食べるとは思えませんが」
「だ、だよね」
しかし流石に哀れに思ったのかツクヨミ様からまさかのフォロー。
普段は鬱陶しそうにしていますがツクヨミ様もスサノオ様のことが嫌いなわけではないのです。多分。
今日も高天原は平和です。