高血圧注意
「そういえばおまえってあんまりお菓子とか食べないな」
「んー?」
小腹がすいたというディレットさんにスルメを差し出すカオルさんと、差し出されたスルメにそのままかぶりついているディレットさん。
はたから見ると餌付けしているようにしか見えませんが、実際餌付けと大差ないので問題ありません。
「けぷっ。商人の子にお試しにって幾つか食べさせてもらったけど、そんなに頻繁に食べたい味ではなかったかな。甘いものよりしょっぱいものが食べたい」
「おっさんか」
そういえばこいつ酒に合いそうなもんばっか食ってるなと今更気付いたカオルさん。
この世界の人魚は本来海の生物なので、陸上に居ると本能的に塩を求めたくなるのかもしれません。
「じゃあ塩っけのあるお菓子なら好きなのか。せんべいとか貰わなかったのか?」
「知らない。甘いものばっかりだったよ」
「じゃあなかったんだな。どうせ金は有り余ってるし、今度買ってみるか」
そう未来の養父であり貧乏貴族な大公さんが聞いたら血涙を流しそうなことを言うカオルさん。
ちなみに某村でちっこい神様が「久しぶりにせんべいとか食いたいなあ」と言ったせいで食道楽エルフがせんべい作りに勤しんでいるのは別の話。
今日も異世界は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「一千年の時を越えて蘇が流行りだすとか日本人摩訶不思議すぎでは?」
「摩訶不思議な存在に言われましても」
SNSを中心に蘇を作る人が増えているのを見て首をかしげるアマテラス様とつっこむツクヨミ様。
蘇というのは平安時代前後に作られていた乳汁を加熱、乾燥させて作る保存食のようなものですが、製法は失われており色々と謎の多い食品です。
とりあえず「乳を煮詰めて作る」のは間違いないらしいのでみんな牛乳を長時間固形になるまで煮込んで作っていますが、古代の蘇と同一のものなのかは誰にも分かりません。
「というか蘇ってたまにお供えされてたけどこんなだっけ? 他に何か混ぜ込んでた気がするんだけど」
「煮詰めただけでは保存食にはなりませんしね。しかし流石に製法までは覚えていませんよ」
「ツクヨミなのに?」
「前々から思っていましたが姉上は私を何だと思っているのですか?」
敬愛する姉に信頼されるのは嬉しいものの、その信頼が明後日の方向に向かっている気がして問い返すツクヨミ様。
ぶっちゃけツクヨミ様のポジションってオモイカネ様でいいよねなどとは影が薄いのを気にしているので言ってはいけません。
「トヨウケヒメならば当時の蘇の作り方を覚えているのでは?」
「それだ! トヨちゃーん。蘇作ってー!」
「いきなり何ですか」
急に呼ばれたと思ったら一千年近く作ってなかったものを今更作れと言われて困惑するトヨウケヒメ様。
本場の蘇が食べられるのは高天原だけ!(人間が食べられるとは言ってない
今日も高天原は平和です。