どうせ阿呆なら体力消耗したくない
「バレンタインとかいう面倒くさいもん流行らせんといてくれんかな」
「クレームは専門の担当の下へお送りください」
開口いきなり文句を言う魔王様と平然と受け流すミィナさん。
すぐそばでは護衛として引っ張られてきたカガトくんがお茶を飲みながら我関せずを貫いており、その様子を見ているミラーカさんが「何こいついじめがいがありそう」とか思いながらも一応客なので表面には出さず笑顔でお茶のおかわりをおススメしています。
「いや本当面倒くさいねん。何で普段全然喋らんようなおっさんにまで義理チョコあげなあかんねん」
「最近そういうの問題になるから禁止されてる会社もあるらしいですけど」
「よし。魔界ではバレンタイン禁止」
「そこはちょっと待ってくださいよ」
魔王様の強権が発動しそうになり待ったをかけるミィナさん。
流石のミィナさんも統治者が禁止したブツを持ち込んで商売できるほど強くはありません。
「別に気に入らなきゃ参加しなければいいんですよ」
「え? そこは参加してもらいたいもんなんやないん仕掛け人としては」
「あくまで私は情報を流しただけで乗るかどうかはその人次第ですよ。それに踊る阿呆に見る阿呆とは言いますけど、踊るのが嫌いな人だっているんだから見る阿呆でいた方が損しない場合もあるでしょうし」
「あーつまり乗ってこない人間が居るのは織り込み済みなわけやと」
「です。こっちの世界では集団圧力じみた状態まではいかないでしょうし。せいぜい恋に頭が茹ってる連中が踊る小道具になればいいかなと」
「恋愛になんか恨みでもあるん?」
あるのかと聞かれたら学園で孤立気味だった理由を考えれば実はありそうなミィナさん。
大体アフロ様のせい。
「節分に恵方巻というのも考えたんですけど、絶対に普及しないだろうなって」
「あーこっちの人は米あんま食べんし馴染みがないやろうしねえ」
ただしカレーは食う。
カレーはカレーという独立したジャンルだからね。仕方ないね。
今日も魔界は平和です。
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一方高天原。
「日本はいつか恵方巻のもったいないお化けに滅ぼされるのでは?」
「恵方巻がことさら注目されているだけで、諸々の廃棄問題を考えたらとっくの昔に滅んでますよ」
アマテラス様の疑問に冷静に返すツクヨミ様。
作者は子供の頃にピーマンのもったいないお化けが襲ってくると吹き込まれて夜中にガン泣きしました。
「それに今年は国が呼びかけたせいか、例年に比べて恵方巻の廃棄量は少なかったそうですよ」
「おお流石。って言いたいけど国が介入してくる時点で異常事態じゃない?」
「土用のウナギでも廃棄が出ないよう、食べきることができる程度になど似たような呼びかけはありましたよ。ウナギが絶滅しそうなのに食べるの推奨するなと一部で炎上してましたが」
「そっち??」
ちなみに国内で流通している国産ウナギの多くは養殖ではあるものの、自然から稚魚を取ってくるというものであり完全養殖ではありません。
完全養殖についても実は目処自体は立っており、三年後には市場に流通すると言われていますが、大量生産が可能になるわけではなくまだまだウナギの危機は去っていない状態です。
「じゃあいつか天然のウナギとか食べなくなるのかなあ」
「いつかも何も現時点で国内産のウナギの99%以上は養殖ですよ」
「なん……だと?」
実は既に完全ではないものの養殖に支配されていたウナギに驚愕するアマテラス様。
今日も日本は平和です。