メリークルシミマス
「メリークリスマス!」
そんな声と共にグラスを打ち付け合うのは、久方ぶりに揃った安達家の面々です。
どうやら無事全員のスケジュールを合わせることができたらしく、欠席者はいません。
「いやもうクリスマスって時期じゃないですよ。もう忘年会ですよこれ」
そしてのっけからつっこみを入れるのはオレンジジュースをクピクピ飲んでるエルテさん。
久しぶりに他の学生組に会えて嬉しいのですが、まずつっこみを入れてしまうあたりは性分です。
「まあ私たちも学生の時とは違って、抜け出せない仕事などが増えましたからね。ヤヨイさんこちらのからあげ美味しいですよ」
「拙者も国元に戻ってからは色々と政に関わることが増えたでござるな。ローマン殿は鮭が好きでござったな。はいあーん」
「遠慮なくなりましたねアンタら」
話しながらも隣に座るお互いにご飯を食べさせ合うローマンさんとヤヨイさんにやさぐれ気味なつっこみを入れるエルテさん。
みんなの祈りでローマンさんを爆発させよう!
ちなみにパーティーの料理は様々なものが盛り合わせになっていますが、七面鳥どころか某大佐のチキンですらなくから揚げなあたりがクリスマスではなく忘年会な雰囲気を加速させています。
「私は細々としたことは手伝うことはありますがそれほど忙しくはありませんね。お兄様が私をあまり外に出そうとしないので」
「それは勿体ないでござるな。外交官を何人も送るよりシーナ殿一人を送り込んだ方が余程戦果をあげるであろうに」
「戦果て」
「しかしガルディアは一時期は王妃殿下一人でも回っていたほどですからね。いやあの人本当にいつ寝てるんですか」
「たまにお兄様に寝室に拉致されていますね」
「夫婦ですよね?」
拉致という不穏な単語に思わず真顔で聞き返すエルテさん。
でも実際アレは拉致としか言いようがないし、そもそも最初の出会いが強制召喚という名の拉致な一歩間違えたら鬱エンドまっしぐらな闇深案件です。
「そういえばマカミ殿は無事に警察官になれたそうでござるな」
「ああ。ただ特殊な採用だからな。やることも捜査関係ばかりで。交番勤務なども体験してみたかったのだが」
「マカミさんが交番勤務したら入り浸る人出てきますよ」
残念そうなマカミさんにむしろ良かっただろうというエルテさん。
交番にリアル犬のお巡りさんが居たら間違いなく人気スポットになります。
「俺は犬ではなく狼だ」
「誰に言ってんですか」
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「まったく。久方ぶりに集まったというのにあちらは仕事の話ばかりだな」
一方酒飲みが集まっている方のテーブル。
一見落ち着いているように見えますが、オグニルさんとナタンさんを筆頭に「がはは!」と笑いながら酒を次々あけているので、カオスとなることは約束されているパンドラの箱状態です。
希望? ねえよ。
「それだけ誇りをもって事にあたっているということだろう。そういう貴様は一度国元に戻らなくていいのか?」
「息子が何とかやっていけているようだからなあ。今更戻ればいらん諍いも増えるだろう」
グラウゼさんの問いに頭をかきながら答えるグライオスさん。
どうやら自分が爆弾だということは理解しているようです。理解していても爆破しまくっていたのが現役時代ですが。
「そういうおぬしは隠居はできたのか?」
「許し自体は得たのだがな。予想以上に魔王陛下の周りに頭が使える者が居ないので呼び出されることが多い。まあ此度の魔王は奔放なようでいて道理はわきまえているようだし先が楽しみではある」
そういうグラウゼさんですが、実は魔王様がグラウゼさんを頻繁に呼び出すのは親の前だとミラーカさんが自重するせいなのですが、幸いというべきか本人は気付いていません。
むしろ「娘は魔王陛下と仲が良いようだし我が家は安泰だな」などと思っているので娘絡みだと節穴になるようです。
「隠居と言えばアダチ。おまえは休みはとれているのか?」
「ええ。大丈夫ですよ」
「どこがじゃ。今日だってこの集まりのためにようやくねじこんだほどじゃろう」
グラウゼさんの言葉ににこやかに答えた安達くんでしたが、即座に訂正するリィンベルさん。
そこでねじ込んででもこのクリスマスパーティーのような何かに参加するあたりが安達くんです。
先ほどからチラチラとノンアルコール組の方を見ているので、それに気づいた子供たちがもうすぐ突撃してきます。
「まあアダチの立場なら仕方がないことであろう。何せ一世一代の大仕事と言っても過言ではない」
「だからと言って倒れたら本末転倒じゃろう。まったくもう歳なのじゃから無理はするな」
それをリィンベルさんが言うのかと安達くんは思いましたが、紳士なので口には出しませんでした。
「リィンベルの方が歳であろう」
「ようし。言いおったなこの小僧」
そしてそういう時には全力でつっこんでいく流石のグライオスさんと笑顔で酒瓶構えるリィンベルさん。
一瞬酒瓶でぶん殴るのかと思いましたが、どうやら飲み比べが始まるようです。平和的な解決方法ですね!(なお飲み終わった後
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「そういえばローマンさん」
「はい? 何でしょうかシーナ様」
一方ノンアルコール組もそれなりに盛り上がっていたのですが、不意にシーナさんに声をかけられ不思議そうに首をかしげるローマンさん。
「私のために色々と骨を折ってくださっているようですね」
「ごふぅっ!?」
暗躍してカッコよく決めてやるぜと思っていた案件がまさかの本人にバレバレでむせるローマンさん。
むしろ何故バレないと思ったのか。
「……えー余計なお世話だったでしょうか?」
「いえ。それなりに時間稼ぎにはなっていますし感謝を。後は私が決心するだけなのでしょうね」
そう言いながら酒飲みたちに囲まれている安達くんを見るシーナさん。
それに気づいた安達くんが手を振ると、シーナさんも嬉しそうに両手を振り返します。
「それほど深く考えすぎない方がよろしいかと。命をとられるわけでもありませんし」
「経験談ですか?」
「ええまあ。冷静になると人生終わりだと思いたくなるような失態でしたが、こうして元気にやれていますので。がさつな男の意見ではシーナ様のような繊細な方には参考にならないかもしれませんが」
「いいえ。ありがとうございます」
そう笑顔でお礼をいうシーナさんと、見惚れてデレっと鼻の下をのばすローマンさん。あと背後で「シャーッ」と威嚇しているヤヨイさん。
今日も日本は平和です。