エンチャントファイア
「陛下。クリスマス休暇をとりたいのだが」
「いきなり何を言い出しとんこの吸血鬼」
魔王様の御座す魔王城にて。
隠居すると言ってた割にそこらの幹部より働いているグラウゼさんからのいきなりの休暇申請とその理由に、魔王様も真顔でつっこみます。
「日本に残っている者たちに、折角だから一度集まってパーティーをしないかと誘われてな」
「誘われるほど仲良いのにまずビックリなんやけど。というか吸血鬼がクリスマス祝って大丈夫なん?」
「何故だ? クリスマスとは家族でケーキを囲んで鳥を食べる祭事ではないのか?」
「間違ってないけど間違ってる!?」
どうやら安達家のクリスマスには以前から参加していたものの、その理由までは把握していなかったらしいグラウゼさん。
ちなみにクリスマスに某大佐な店のチキンを食べるのは日本だけというのは割と有名ですが、その某大佐の店はクリスマスだけで年間の売り上げの一割近くを稼いでいたりします。
日本人の適当さとノリの軽さが良い意味でも悪い意味でも如実に出ていますが、経済が回るのはいいことです。多分。
「なるほど。聖人の誕生祭だったのか」
「あ、言わんほうがよかったコレ?」
「別に私はそこまで狭量ではないぞ。それに節分の豆のように料理に聖属性の魔力付加がされているわけでもあるまい」
「節分の豆にエンチャントされとるというのも初耳なんやけど」
別に節分で売っている豆は神社で祈祷されていたりはしませんが、豆を撒くという行為自体が神事にあたるのでマジで聖属性が付与されてグラウゼさんがお祓いされる可能性はあります。
吸血鬼は別に鬼ではありませんが聖属性には弱いのです。
「まあ魔界はあっちの年末年始の時期にイベントあるわけじゃないしいいけど。そもそもアンタ隠居しとるだけで仕事は手伝ってもらってる状態なんやから、別に私にわざわざお伺い立てんでもいいんやないん」
「いや。どうやら日本との門を開く許可を取れそうにないのでバレた場合がまずそうでな」
「まずそうなら私に教えんといてほしかったなあ!?」
聞いちまった以上、実際にバレた場合にバックレるのが難しくなったじゃねえかとつっこむ魔王様。
割と真面目な魔王様は「部下が勝手にやりました」とは聞いてしまった時点で開き直り辛いのです。
「大丈夫だ。首謀者はフィッツガルドの元皇帝ということになっているから、少なくともあの国は強くはでれまい」
「いやそこまで権力者集まっとるなら正攻法で許可とった方がよくない?」
グラウゼさんの言葉にやはり割と常識的なつっこみをいれる魔王様。
今日も魔界は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「吸血鬼がクリスマス祝うって面白い絵面だよね」
「盛大なブーメラン投げているのに気付いていますか?」
毎年クリスマスのたびにはしゃいでるくせに何か言ってるアマテラス様と呆れるツクヨミ様。
神様はお祭り好きだからね。仕方ないね。
「吸血鬼ってイモータル(不死者)のくせに何であんなに弱点だらけなんだろうね。死を克服した超越者でしょ」
「逆に強力すぎるから、アレほど弱点を抱えてようやく人間に打倒できる存在だということでしょう。基本的に人間を狩る側の存在ですからね」
ちなみにミラーカさんとよく似た名前というかぶっちゃけ元ネタの吸血鬼カーミラは、太陽光が平気な上に斧で襲いかかってきた将軍を片手で制圧したりと、見た目少女な割にチートなスペックを誇っていたりします。
ただし眠ってる本体を殺されると死ぬ。
「まあ姉上には関係ないでしょうが」
「私には関係ないねえ」
存在そのものが吸血鬼の天敵という流石の神様の貫禄アマテラス様。
カーミラは太陽光平気だからアマテラス様も平気じゃないかって?
……気にするな!
今日も高天原は平和です。