大体ウェッターハーン商会に言えばいい
「卵も牛乳も使わないバウムクーヘンを作ったのでお召し上がりください」
「むしろ卵も牛乳も使わずにバウムクーヘン作れるのか」
ケロス共和国のとある村にて。
年輪のような輪っかが特徴的なお菓子を差し出すイネルティアさんと、驚きながらも受け取って食べ始めるスクナヒコナ様。
バウムクーヘンの体積がスクナヒコナ様より大きいような気がしますが、何故か食べきれるので問題はありません。
「お、意外に美味い。もっと味気ないのかと思った」
「牛乳は入れていませんが蜂蜜や菜種油など色々と入っていますので」
そう言うものの、実は材料が思ったように集まらなくて再現率に不満があるイネルティアさん。
一刻も早く大豆の栽培を実現し、お菓子作りに置いて牛乳の代替の定番である豆乳を安定供給せねばと、お菓子作るのに全力をかけています。
「いやー私としてはバウムクーヘンがフライパンで焼けるというのが予想外でしたね」
一方スクナヒコナ様に渡すには出来が悪いと判断されたバウムクーヘンを食べながら言うイサオさん。
こっちはこっちで歳の割に色んなもん食いまくってますが、相変わらず健康そうでまだまだ長生きしそうです。
ちなみにフライパンでバウムクーヘンを焼く場合は、だし巻き卵を作るように薄く焼いた生地を巻いていき、それに次々と焼き上げた生地を巻き付けていくという過程を繰り返します。
「俺は真ん中に穴が空いてないバウムクーヘンは認めねえ!」という場合は、最初に巻く生地の内側にアルミホイルで作った筒を差し込んでおき後から抜くという方法もあります。
というかぶっちゃけ見た目に拘らないなら丸めずに焼いて食っても良いと思います。
それもうバウムクーヘンじゃないって?
こまけぇこたぁいいんだよ。
「アスカが居なくなって料理のレパートリーが減るかと思ったら、まさか毎日のおやつが充実するとはなあ」
「俺たまにはもっとがっつり肉食いてえ」
着々と異世界にお菓子を広めていくイネルティアさんに感心するスクナヒコナ様に対し、エルフが大量に村に居つき食卓を共にするせいで最近肉食ってねえと不満を漏らすサロスくん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「材料がバウムクーヘンなら平らに焼いてもそれはバウムクーヘンなのでは?」
「違いますよ」
細かいことは気にしないアマテラス様の言葉を即座に否定するツクヨミ様。
そうだね。巻いてないバウムクーヘンとかバウムクーヘンじゃないよね。
「バウムクーヘンというのはドイツ語で木のケーキという意味ですからね。年輪がなくなったらバウムじゃありません」
「つまりただのクーヘン」
「ノリで言ってるのでしょうがそれで合っています」
ちなみにバウムが木でクーヘンがケーキという意味です。
「それに日本で贈答用の菓子として定着したのは、年輪が年を重ねることを意味しておめでたいとされたからですしね。そのおかげで本場のドイツよりも広く周知されているというのも驚きですが」
「え? ドイツでは周知されてないの?」
バウムクーヘンは元々ドイツのお菓子ですが、作るのに高度な技術が必要とされ一部の専門店でしか扱われない高級菓子なのです。
なのでバウムクーヘンを知らない、食べたことがないというドイツ人もいたりします。
これ美味しいね何処の国のケーキ?
おまえのとこや。
「一部の専門店限定って何か凄そう。凄そうだけど私だと食べてもコンビニの百円ちょっとのバウムクーヘンと違いが分からなさそう」
「いや流石にそれは分かるでしょう」
もっと自分の舌に自信を持てというツクヨミ様と、ある意味自分の舌を信頼しているアマテラス様。
今日も高天原は平和です。