俺はポテトだ
「男爵って何すればいいんですか?」
「何でそれを私に聞きに来るかな」
フィッツガルド帝国の帝都にて。
休みだひゃっほいと街へ繰り出しティータイムとしゃれこんでいたローマンさんでしたが、突然襲来しちゃっかり相席になってるカガトくんに呆れた視線を向けています。
ちなみにフィッツガルドは貴族以外の富裕層も多いので小洒落た店が多く、そういった店を回るのがこちらに戻ってからのローマンさんのマイブームだったりします。
「ヴィルヘルミナに聞けばいいだろう」
「お嬢様は今日仕事なんですよ。それにローマンさんの説明って分かりやすくて」
「まあそうだろうけど」
カガトくんにまったく信頼されていない皇帝陛下もですが、基本的に価値観が違い過ぎて「何が分からないのか分からない」状態なのでローマンさんのように両方の文化をある程度理解できている人間は実は希少だったりします。
そのため実は対日本交渉で日本人な王妃様の居るガルディア王国は現在かなりリードしてたりするのですが、今は関係ありません。
「まあ爵位と言っても最下位だからね。昔は建前だけでも領地が付随してたんだけど今はそういうこともないし。役職じゃなくて称号とでも思っておけばいいよ。あと呼ぶときは『デンケン侯』みたいに爵位をつける場合もあるけど、男爵の場合は『卿(Lord)』と呼ばれることが多いね。君だったら加賀卿かな」
「何それカッコいい」
爵位とかめんどくせえと思っていたカガトくんですが、実際に呼ばれてみたらちょっとときめいてしまったのは男の子だから仕方ありません。
ちなみに爵位というのはローマンさんも言っているように基本的に領地に付随しているものなので、本来なら爵位で呼ぶときは家名ではなく領地の地名につけて呼ばれます。
日本でも途中からは有名無実化しましたが官位に「筑前守」のように本来赴任する地名がついているようなものです。
じゃあなんで作中ではそうしてないのかって?
ややこしくて作者すら忘れそうだからです。
「あとうちの国では男爵は一代限りだからね。子供には継がせることはできないよ。まあ君なら跡取りが自分しかいない貴族女性に熱烈な勧誘を受けるだろうから些細なことだろうけど」
「何それ恐い」
「何故だい」
貴族の女性から人気があると言われて恐がるカガトくんと、何故恐がるのか分からないローマンさんというやはり分かり合えない価値観の相違。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「男爵いもって芋のくせに何で爵位持ってるの?」
「男爵いもは日本に持ち込まれたときにつけられた名前であって本当に男爵位を持っているわけではありません」
突然食べかけのコロッケを見つめ始めたと思ったら何か言い出したアマテラス様に冷静に返すツクヨミ様。
一見頓珍漢なことを言っているようにも見えますが、実は人以外のものに爵位や官位を与えるということはたまにあり、無機物では天下三名槍と呼ばれる槍の一つである日本号が正三位を授かったという伝承もあります。
「英語名はアイリッシュ・コブラーです。日本に持ち込んだ人間が男爵だったので男爵いもと命名されたそうですよ」
「じゃあ持ち込んだのが子爵だったら子爵いもになってたの?」
「恐らくそうなっていたでしょうが語呂が悪いですね」
ちなみに男爵いもから派生した品種としてホワイトバロン(白男爵)という品種もあります。
「といいますか、よくコロッケの材料が男爵いもだと分かりましたね」
「え? コレ男爵いもなの?」
「……」
どうやらじゃがいもから連想しただけで今食べているじゃがいもの品種は別にどうでもよかったらしいアマテラス様。
ちなみに後でトヨウケヒメ様に聞いてみると本当に男爵いもだったので、実は見抜いていたのかと悩む羽目になるツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。