何故か町内会が必死に定着させようとする
「お菓子貰ってくださいお願いします」
「斬新なハロウィンの文句ですね」
学校から帰ったら中年神官なナタンさんからカボチャのカップケーキを差し出され、戸惑いながらも受け取るエルテさん。
ちなみに南瓜の原産地はアメリカ大陸なので、実は元々ハロウィンとは関係ありません。
「どうしてお菓子作りながら凹んでるんですかナタンさん?」
「イネルティアが里帰り中じゃからな。太らせる相手がいなくて張り合いがないらしい」
「ああ。普段から自制を口にしてる割にたまに負けてますよねイネルティアさん」
「まあ体重計と睨み合っとるうちは大丈夫じゃろう。むしろあっちに体重計とかないからまずそうじゃが」
イネルティアさんリバウンドの危機。
さらに食道楽になっているので周りのエルフを巻き込むかもしれないというオマケつきです。
つまりナタンさんは今すぐにイネルティアさんを追いかけてエルフがたむろってる村でお菓子作りまくれば幸せになれます。
実際にそうなったら嫌なのでリィンベルさんは気付いているのに言いませんが。
「ああ。どこかにイネルティアさんのような方はいないでしょうか」
「いたらまた太らせる気じゃろうがおぬし」
「違います。太ること自体じゃなくて太って葛藤してるのがいいんです」
「おまえ何を言っておるんじゃ」
相変わらず性癖隠すつもりもないナタンさんにドン引きするリィンベルさん。
ちなみにリィンベルさん自身も一時期ターゲットになりましたが、あまり過食することがなく太る気配もないのでナタンさんの方が諦めました。
仮にナタンさんの企みが成功していたら、孫まで居る未亡人を太らせ悩ませて喜ぶ中年神官というヤバい関係が成立するところでした。
「ヤバいと言えばヤバいんじゃが、ひっかかる方の自制心も問題があるからのう」
「本当にこの人神官なんですかね」
確かに性癖はヤバいが基本は無害なのでどうしたものかと悩むリィンベルさんと、今更過ぎる疑問を発するエルテさん。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「お菓子くれなきゃ岩戸隠れするぞ☆」
「それお菓子どころか宴会始まりますよ」
仮装もしてないのにお菓子を要求するアマテラス様と当然のようにお菓子を準備しているツクヨミ様。
別にハロウィンじゃなくてもアマテラス様が要求すればツクヨミ様はお菓子渡すでしょうが細かいことを考えてはいけません。
「というかシュークリーム? むっふぉう!? 中のクリームにカボチャが!」
「食べて終わってから話してください」
「んぐ。でもカボチャってアメリカ大陸原産でしょ? じゃあ大陸見つかる前ってジャックオーランタンとかどうしてたの?」
「アレは元々はカブのランタンですよ。アメリカ大陸にカブがなかったから代用でカボチャが使われだしたので、スコットランドなどでは今でもカブが使われています」
「え? 何そのランタン地味そう」
ちなみにジャックオーランタンというのは「ランタンを持つ男」という意味なので、本体はランタン持ってる男の方です。
元々は鬼火の一種のことだったのですが、最近では例によってカボチャのランタンの影響を受けて頭がカボチャな男として描かれることが多くなっています。
「代用にカボチャが使われるようになったせいで頭がカボチャに……」
「そう言われると本人がどう思っているのか気になりますね」
伝承が変わることにより姿まで変わったことに驚愕するアマテラス様と、頭をカボチャにされた男の心境を気にするツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。