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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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勇者と雷神

 勇者。

 世界を救うとされるその存在にも様々なタイプが存在し、中には「魔王? 何それ美味しいの?」という勇者も存在します。

 フィッツガルド帝国によって召喚された勇者はまさにそれであり、彼は宿敵アシリア王国との戦いを終わらせるために呼び出された、人の都合に振り回される哀れな勇者でした。

 哀れな勇者になるはずでした。


 状況が変わった原因は勇者であるマサトくんに引っ付いてきたおっさん……もとい守護者の存在でした。

 雷神トール。アース神族でも有数の力を持ち、時にゼウスと同一視されるほどの神。


 もう利用しようとしていた神官たちも謝るしかありません。

 元から利用するつもりが無かった皇帝(元皇子)は笑うしかありません。


 しかし幸いというべきか、トール様の情報を掴んだアシリア王国は「ちょ、神様とか無理!?」と和睦という名の降伏を宣言。

 計らずも戦争を終結に導くことになった勇者とトール様でした。


「師匠、師匠! この壁の向こうが怪しいよ!」

「応! 確かに隠し部屋とかありそうな配置だな!」


 そして晴れてお役御免となった勇者とトール様でしたが「せっかく異世界に来たんだから冒険とかしたい」と言い出したマサトくんに「うむ! 男の浪漫だな!」とトール様も同調。

 こうして異世界に最強の冒険者コンビが誕生したのでした。


「ちょっとマサトもトオルも、私より先に進むなって言ってるでしょ!?」

「まあまあ、二人なら罠にかかっても大丈夫でしょうし」

「……そういう問題ではないだろう」


 そして自由気ままに冒険をしていた一人と一柱でしたが、今では仲間も増えてきました。

 小柄ながら勝気な様子のシーフの少女と、温和な女性魔術師。そして苦労人気質な青年神官騎士。

 一見普通の人たちですが、勇者と神様に引っ付いていける変人集団です。


 ちなみに「トオル」というのはトール様の偽名です。周囲にはマサトくんの叔父ということにしてあります。

 正体隠す気が無いにも程がありますが、気付かれてないので問題ありません。


「うむ。壁を壊すならわしの出番だな。……出でよミョルニル!」


 そう言ってトール様が取り出したのは、短い柄の付いた槌。

 打ち砕くものを意味する槌であり、トール神を象徴する武器です。


 因みに一度腐れ縁のロキ様にうっかり騙されて、このミョルニルを持たずに巨人族のところに一人で行こうとしたことがありますが、通りすがりのお婆さんにミョルニルと同じ力を持つ魔法の杖を借りて事なきを得ました。

 通りすがりのお婆さんスゲェ。


「ミョルニル……なるほど。トオルさんとトール神の名前をかけてるんですね!」

(いやどう見ても本物だろ!? というかどう考えても本神だろ!?)


 素直に感心する女性魔術師に対し、神官騎士が心の中でつっこみを入れます。


 実はこの神官騎士、正体は魔王様配下のデュラハンさんです。

 隣国の勇者が魔王様に陥落(呆れ)したため、こうして他の勇者を見張るために仲間のふりをしているのですが、つっこみどころ満載の勇者(というかトール様)に日々胃を痛めています。


 デュラハンが神官騎士のふりとかできるのかよとつっこまれそうですが、デュラハンは厳密にはアンデッドではなく妖精の仲間です。

 首の無い馬の引く馬車に乗り、死人の出る家を訪れたり、自分を見た人間の目を鞭で叩き潰したり、川を渡れなかったりします。

 ……やっぱおまえアンデッドだろ。


「では壁を壊すぞ。トールハンマー!」

(堂々と名前言い放った!?)


 ミョルニルを振りかぶり何か技っぽいものを叫ぶトール様。

 相変わらず正体隠す気零ですが、何故かデュラハンさん以外は気付きません。


 今日も異世界は平和です。



「アマテラス様って可愛いけどあんま頼りになりそうにないな」

「そりゃ先陣きって戦うような神様じゃないしな。吸血鬼相手なら無双だろうけど」

「そういうのはスサノオ様とかタケミカヅチ様の役目だろ」


「……むう」


 一方高天原。

 膝の上にノートPCを乗せ、自分に対する人間たちの評価を見て唸る我らがアマテラス様。頼りないとか言われて少しご立腹のようです。

 そしてそんなアマテラス様を見て、何故か胡乱な目を向けるツクヨミ様。


「……何をやっているのですか姉上。というかタヂカラオ」

「ふっ……腕立て……伏せ……ですが!?」


 ツクヨミ様の問いに答えたのは、スサノオ様とタメをはるマッスルな男性神。

 彼は天手力男神。

 天岩戸事件のときに、アメノウズメ様につられて出てきたアマテラス様を引きずり出した(あるいは岩戸を開けた)力を象徴する神様です。


 そんな神様に開けられなかった岩戸を軽々開けるアマテラス様に怪力疑惑が出ていますが、深く気にしてはいけません。

 きっと太陽神の不思議パワー的な何かのせいです。


「腕立ては分かります。私が言っているのは、何故姉上を乗せているのかということです」


 ツクヨミ様の言う通り、腕立てをするタヂカラオ様の背中には、ノートPCを眺めるアマテラス様がちょこんと座っています。

 ツクヨミ様がちょっと羨ましいと思ったのは内緒です。


「負荷を……かけ……ようと」

「何故そこで姉上を……。姉上は姉上で何を悩んでいるのですか?」

「うん? ちょっと最近私の威厳が落ちてるなと思って、何とかできないかなぁと」

「……」


 ツクヨミ様はそんなもん最初からねえだろと言いそうになりましたが、辛うじてひっこめました。

 何せ伊勢神宮に一人で祀られるのは嫌だと豊受大神を呼んじゃうくらいです。アマテラス様は寂しがりやなのです。


「威厳を……出すのならば……筋肉をつければよろしいかと」

「あなたは黙って腕立てをしていなさい」


 脳筋なタヂカラオ様の提案をツクヨミ様は切って捨てます。

 アマテラス様がマッチョになったら、威厳は出そうですが各方面から苦情が来てしまいます。


「……それだ!」

「いや『それだ!』じゃないでしょう!?」

「ならば……某が効果的な……トレーニングを」

「しなくていいです!?」


 しかし案外乗り気なアマテラス様とノリノリでトレーニングを考え始めるタヂカラオ様。

 これには普段は冷静沈着百合好きなツクヨミ様も、珍しく焦りながらつっこみます。


 今日も高天原は平和です。


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