発射する!
「いやはや。話に聞いてさぞ立派になっただろうと思っていたのに相変わらず幸が薄そうな顔でござるな」
「なんで笑顔でディスられてんの俺!?」
ホムラ国の将軍のおわす城にて。
ローマンくんが将軍閣下と謁見している間暇になったカガトくんと、かつてそのカガトくんにフラれたとは思えない朗らかさで対応するヤヨイさん。
別に苛めて楽しんでいるわけではありません。
「えーと。そういえばこっちにも来客用の椅子とかあるんだね」
「ああそれは大陸の方から客人が来るということで急遽用意したものでござる。こちらでは床座が基本とはいえ他国のものにそれを強要すれば侮辱と取られかねない故。とはいえカガト殿は日本人なので問題なかったでござるが」
「いや俺も長時間床に座るのは慣れてないんで」
ちなみに最近長時間正座できない日本人が増えていますが、同様に和式便所が廃れたことにより長時間中腰の態勢でいられる人も減っていたりします。
和式便所しかない場所でお腹を壊した時は人によってはヤベエ事になるのを覚悟しておきましょう。
照準が定まらん……ええい、ままよ!
「えーと。ところでさっきから普通に話してくれてるけど。例の件に関しましては……」
「拙者既にローマン殿と婚姻を前提としたお付き合いの最中な故、事実はそれとして根も葉もないことまで話すようならそっ首叩き切るでござる」
「武士恐!?」
余計な事蒸し返すんじゃねえと先ほどの笑顔のままでありつつも威圧感を放ちながら言うヤヨイさん。
ちなみに江戸時代などは武士は気に入らなければ辻斬りしまくってたと思っている人も居ますが、辻斬りは普通に犯罪で取り締まり対象なので好き勝手に斬りまくれるわけではありません。
「いやまあ感謝もしてるでござるよ。いつも通りな優柔不断な態度で流さずきっちりフッてもらえたからこそ、拙者も前に進めたと思う故」
「いやあの時は俺も切羽詰まってたというか。安全だと思ってた子がまさかの伏兵でこのままじゃやられると思って」
「人を何だと……。いやあの時のカガト殿の立場的に仕方ないとも思うでござるが」
そのせいでちょっと女性不信気味で現在も主のヴィルヘルミナさん以外はあまり信用していないカガトくん。
そのヴィルヘルミナさん以外でよく会う女子がミィナさんだから仕方ないね。
「まあ今となっては笑い話でござるよ」
「笑いながら首落としに来るから武士恐い」
吹っ切れたように笑うヤヨイさんと、逆に笑顔が軽くトラウマになったらしいカガトくん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「何で日本て正座が正式な座り方なの? マゾなの?」
「マゾなのは否定できませんがそのせいではありません」
アマテラス様の疑問に答えながらもまさかの日本人マゾ説は否定しないツクヨミ様。
「正座はああ見えて腰から上への負担は軽い座り方なんですよ。正しい座り方や体重のかけ方を心得れば足への負担も減らせます。まあ海外では不健康な座り方だと切って捨てられることが多いですが」
「えー。そう一刀両断されるとそれはそれで納得いかないような」
「どんなものにも優劣はありますからね。まあもっとも正座が正式なものになったのは江戸時代以降でありそれ以前は立膝や胡坐が主流だったと言われていますが」
「そうなの? 時代劇とかで殿様の前でみんな正座してない?」
「時代劇の前に姉上自身も当時のことは知ってるでしょうに」
「そこまで細かく覚えてない!」
「でしょうね」
何のためらいもなく言いきられて納得するツクヨミ様。
数百年前だからね。仕方ないね。
「なので武術なども古いものは正座ではなく立膝のものがありますよ。まあ敢えて正座の状態から反撃する技を編み出した武術もありますが」
「やっぱり日本人てマゾというか縛りプレイ好きなんじゃないの?」
「限られた条件下でもベストを尽くすだけでしょう。多分」
そしてまたしてもやはり完全には否定されない日本人縛りプレイ好き説。
今日も高天原は平和です。