除湿も何気に重要です
「おまえの親父さん紳士的に見えて人使い荒いな」
「そりゃ荒くないと総理大臣なんてやってられないと思いますけど」
安達家のリビングにて。
他の学生組とは違い異世界に帰っていなかったエルテさんと、何故か居る王妃様。
実際に安達くんの人使いの荒さの犠牲となったのか王妃様から少し疲れが見て取れます。
「話には聞いてたが本当に父親代わりと認めてんだな。親が恋しい歳でもないだろうに」
「んーそれを言われるとそうなんですけど。お父さんはなんというか『家族』なんですよね。私の場合は元々親がいないから『父親』という形で受け入れただけで、他の皆も家族だと認めてると思いますよ」
「あーまあ一緒に居れば情もわくよなあ」
自分も強制的に召喚されて結婚させられたのに、何だかんだで上手くいっているのでとりあえず納得する王妃様。
何気に王妃様の立場も何かが噛み合わなければ鬱で自殺しかねないヤバい状況です。
「まあおまえらが仲いいのは分かった。でも安達総理としては下手に仲が良いせいで、おまえさんが自分に遠慮して帰りたいと言えなくなったんじゃないかと心配してるらしい」
「え? むしろ帰りたくないです」
「素直でよろしい」
あからさまに嫌そうな顔するエルテさんと、これは嘘言ってる顔じゃねえわと納得する王妃様。
そもそもエルテさんは割と嘘つかないというか正直すぎて無自覚に人に喧嘩売るタイプです。
「一応聞いとくが理由は」
「だって私生まれもはっきりしない孤児ですよ。帰ってもというか帰る場所なんてないし、他の人たちみたいに理不尽に強いわけでもないんだから下手すれば野垂れ死にますよ」
「うん野垂れ死には嫌だな」
実は異世界に召喚されたばかりの頃、脱走しようかと思ったものの、それこそ野垂れ死にそうなのでやめたという経験のある王妃様。
衣食住が保証されているというのは生きる上で重要です。
「こっちなら安定した生活を送れる上に将来に備えて勉強までさせてもらえるんですよ。しかもリィンベルさんたちに中途半端だった召喚術や魔術の知識も教えてもらえますし。……もしかしてここが楽園なのでは? アマテラス様万歳さすが女神様」
「とりあえずおまえが日本の生活を満喫してるのは分かった」
改めて自分の境遇を鑑みてアマテラス様に感謝を捧げるエルテさんと呆れる王妃様。
今日も日本は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「……今誰かにものすごく感謝された気がする」
「そりゃ姉上の立場なら日々誰かが感謝しているでしょう」
エルテさんの念をキャッチし調子に乗る準備をするアマテラス様と、即座に沈静化をはかるツクヨミ様。
伊勢神宮には月に数十万から百万人近い参拝者が訪れています。
「嘘だ! そろそろみんな暑さに負けて『太陽爆発しろ』とか言い出す季節だもん!」
「それ姉上が自分で言ってましたよね?」
毎年恒例アマテラス様による遠回しな自殺宣言。
暑いもんは暑いからね。仕方ないね。
「それに冷風扇が涼しいは涼しいけど足りない。焼け石に水という言葉を痛感する」
「そりゃ扇風機よりはマシ程度でエアコンとは雲泥の差ですからね」
「やっぱりエアコンかあ。ところでエアコンの中には自分で窓に設置する窓用エアコンていうのがあるらしいんだけど」
「そういうことを自力で調べてくるということは本気で暑いの嫌なんですね」
珍しく人に聞かずに自分で調べものをしていたアマテラス様に感心するツクヨミ様。
人は楽をするための努力は惜しまないものなのです。
「確かに窓用エアコンは自分で設置できますが」
「だよね!」
「姉上の部屋には丸窓しかないので、恐らくそんな窓への設置は想定されていないかと」
「……」
ツクヨミ様に言われて壁のど真ん中にあるでっかい丸窓を見るアマテラス様。
太陽神の部屋だからね。イメージピッタリだね。
なお実際に丸窓に設置できる窓用エアコンが存在するか否かは作者にも分からないので、もし設置可能な窓用エアコンをご存知の方は高天原までご一報ください。
「よし! 壊そう!」
「直すあてもないのに壊さないでください。大工仕事なら高天原にもできる神はいますから」
全部あの丸窓が悪いんやと破壊工作に出ようとするアマテラス様と、冷静に改装の準備をしろと勧めるツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。