道路に延々と苗が落ちている衝撃的光景
「帰るタイミングが掴めません」
「いきなりなんだよ」
ケロス共和国のとある田舎の村にて。
田植えの終わった田んぼの前で仁王立ちしながら宣言するアスカさんと呆れた様子で聞き返すサロスくん。
すぐ近くではスクナヒコナ様が黙々と皿に盛られた枝豆食ってます。
枝豆は一度食べ始めると止まらないので仕方ありません。
「いや、最初は向こうの学校の新年度に合わせて帰ろうと思ってたんだけど、田植えを手伝わずに帰るのもどうかなと思って残ってたんだよね。でも今このタイミングで帰っても半端だし夏明けにしようかなと考え直してたんだけど、それだと今度は収穫が近いから帰るのも……」
「いや帰れよ」
何で自分の都合より農業優先してんだと、帰って欲しくないのに思わずつっこむサロスくん。
なんだかんだ言って根はいい子なので自分の気持ちで我儘とか言えないのです。
「それに休んでた分を取り戻す時間もいるんだろ。タイミング考えずにさっさと帰って準備にあてればいいだろ」
「……まさかサロスくんからそんな建設的な意見が」
「オイ」
人を何だと思ってるんだとつっこみたいサロスくんですが、割と自分がお馬鹿なのは分かってるので深くは問いませんでした。
自覚のあるお馬鹿はその時点でただのお馬鹿ではないのです。
「あれ。そういやアスカが帰るならチビ神はどうするんだ?」
そう言いながら相変わらずひたすら枝豆食ってるスクナヒコナ様を指すサロスくん。
いつもながら食ってる分はどこに行ってるんだとか神様なので考えてはいけません。
「ん? 俺はあくまでアスカのサポートで派遣されたわけだしなあ。アスカが無事に日本に帰って一区切りつくなら戻るべきなんだろうが」
「でもイサオさんたちがお酒造るからできたらスクナヒコナ様に献上したいって言ってましたよ」
「この村が心配だからしばらくは様子を見るか」
「清々しいほどに俗っぽいなおまえ」
明らかにお酒につられて残ることを宣言したスクナヒコナ様につっこむサロスくん。
日本の神様はお酒好きだからね。仕方ないね。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「ジャブとしてお父さんにお酒送ってみた」
「普通に父の日なんだから送ればいいでしょう」
相変わらずイザナギ様に会えてないので機を窺っているらしいアマテラス様と、その慎重すぎる姿勢に呆れるツクヨミ様。
一度逃げられているのでアマテラス様も万全の態勢で挑みたいのです。
「それで酔った所に行けば完璧だと思うんだけど」
「だからそういう駆け引きはやめなさいと」
そして慎重になりすぎるあまりまたしても逃亡フラグを立てるアマテラス様。
ぶちといい追うと逃げられることに定評があります。
「というか父の日っていつのまにできたの? 祝日でもないしそんな古いものじゃないよね」
「古いものどころか母の日含めてアメリカで始まったものですから日本由来のものですらありませんよ」
「なん……だと?」
母の日というのは1907年にアメリカでアンナという女性が亡き母を偲び白いカーネーションを送ったのが始まりだとされています。
父の日はその後母の日に合わせる形で始まったとも。
「え? じゃあ日本には元々親に感謝する日とかなかったの?」
「いえ。一応はこどもの日が子供の祝福を願うとともに母親に感謝する日ですよ」
「……父親は」
「さあ?」
「『さあ?』て!?」
ツクヨミ様の投げやりな言葉に驚くアマテラス様。
実際母の日と父の日にプレゼントを贈る人の割合を調べると、明らかに父親に送る人の割合が少ないという結果が出ていたりします。
みんなもっとお父さん大切にして。
「……今からお父さんに会いに行っても大丈夫かな」
「そう思う時に素直に行った方がいいと思いますよ」
ようやくまともに会いに行く気になったらしいアマテラス様と、これ以上気が変わらないうちにけしかけようといつも通りの雰囲気のまま内心で「行け行け!」と連呼するツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。