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「やあローマン。こうして面と向かって話すのは初めてだね」
「そうですね。私は兄上とは違って父の仕事に同行することや手伝うことはありませんでしたし」
フィッツガルドの王宮にて。
にこやかに語りかける皇帝陛下と、何を考えているのか分からないポーカーフェイスで返すローマンさん。
皇帝陛下は本人の言う通りこういう状況に慣れていないせいだろうと思っていますが、当のローマンさんは「うわあ、めんどくさい人に目をつけられた」と思っています。
既に父であるデンケンさんや陪臣なのにこき使われているカガトくんと接触して皇帝陛下についてある程度聞いているので、取り込まれてたまるかと既に心は逃げの態勢に入っています。
「いや、中々いい面構えじゃないか。とても公衆の面前で婚約者を辱めた男とは思えないよ」
「ぐふっ」
そしてここで皇帝陛下からローマンさんのトラウマを抉るジャブ。
思わずどこかの国民的RPGの断末魔の台詞みたいな声を漏らすローマンさん。
記憶から抹消したい黒歴史をほじくり返されてノックアウト寸前です。
一方の皇帝陛下ですが、何もローマンさんをいじめるためにこのようなことを言い出したわけではありません。
事前にローマンさんが通っていた学園などから情報を集め、ローマンさんはプライドが高く良くも悪くも貴族らしい貴族だという情報を得ています。
故にそのプライドを刺激することにより多少の反抗心を持たれても「やったらあ!」と反応してくれることを期待しているのです。
「……そうですね。私のような不甲斐ない男の顔で陛下のお目を汚して申し訳ありませんでした」
「あっるぇー!?」
しかしまさかの反骨心を見せるどころか認めて退室準備に入るローマンさん。
ローマンさんの高いプライドなんて日本に行ったその日にグライオスさんにバッキバキに折られてるので、もうトイレの入り口の段差くらいの高さしか残っていません。
「うん私が悪かった。悪かったからもう少し話を聞いてくれないか」
「陛下。陛下の立場でそう簡単に前言を撤回して謝罪するのはいかがなものかと」
「正論!? 今二人だけだし見逃してくれないかな!?」
そして皇帝陛下が引き下がったと見るや一転攻勢に出るローマンさん。
安達家の濃い面々に散々扱かれたローマンさんのプライドはともかくメンタルの強さは伊達ではありません。
「いや本当にね。私の周りには心から信頼できる臣下と言うものが少ないんだ。だから君のような若くて将来性のある人間に是非ともそばで働いてほしいんだよ」
「それならそうと素直に言えばいいものを、試すような真似をするのは逆に信頼を損ねますよ」
「君顔は似てないのに中身は父親そっくりだな!?」
遠慮とかどっかに投げ捨ててきたローマンさんの指摘に、あの親にしてこの子ありとちょっと侮ってたことを後悔する皇帝陛下。
しかしローマンさんが皇帝陛下に遠慮がないのは今のところ仕える気がまったくないのと、ヤヨイさんが一人娘なので婿入りも考えていて、フィッツガルドに残る気すらほとんどないためです。
本気で主とするならもう少し敬います。
「それに私とヴィルヘルミナのことを知っているのに引き込もうとするなど正気ですか。職場に修羅場の空気を発生させるおつもりですか」
「仕事が多すぎて既に修羅場ってるから今更だな」
「それを言われて私がはい分かりましたと頷くと思いますか」
ついにぶっちゃけた皇帝陛下に絶対取り込まれてたまるもんかと決意を新たにするローマンさん。
しかしそんな微妙な空気を引き裂くように乱入する影が!
「ああもう、じれったいですわね! 私をふったときの思い切りの良さは何処に行ったんですの!?」
「え? は? ヴィルヘルミナ?」
「私たちが忙しいのは貴方も巻き込まれた異世界召喚も関わっているのですから、手伝っても罰は当たらないでしょう!」
「い、いや。君は私の顔など見たくないだろうし……」
「私を気遣うなら私の仕事を減らしなさい。返事は!」
「ハイ喜んで!」
「よろしい!」
いきなり現れたと思ったら、ローマンさんに勢いで了承を取るとすぐさま去っていくヴィルヘルミナさん。
徹夜明けのテンションって恐ろしいですね。
「……元気そうでよかった」
「今の見てその感想が出る君も中々大物だね」
久しぶりにヴィルヘルミナさんと会い安堵したような顔をするローマンさんと、アレを元気と言っていいのかとつっこむ皇帝陛下。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「冷風機って業者に設置頼まなくても使えるんだよね」
「いきなりなんですか」
まだ初夏とは思えない異常な暑さもやわらぎ、しかし夏本番を前に準備を始めたらしいアマテラス様と呆れるツクヨミ様。
日本全国どこにでも伺いますな業者も高天原には来れないので仕方ありません。
「冷風機は確かに電源だけで動きますが、日本家屋には向いていませんよ」
「え? 何で? いくら日本家屋でもそこまで隙間だらけじゃないでしょ」
「冷風機と言うのは原理的にはエアコンと一緒なんですよ。排熱がありますから冷風機自体を窓などに設置するか排熱のためのダクトをつける必要があるんです。そして窓のサイズなどによって取り付けが困難だったり取り付けられなかったりするんですが詳しく聞きますか?」
「いい!」
ツクヨミ様の言葉に笑顔で拒否するアマテラス様。
ただでさえちょっと暑いのに頭が茹りそうな話とか聞きたくありません。
「まあそれでも冷たい空気が出るのは確かなので扇風機よりはマシだと思いますが、それなら冷風扇の方がいいかと」
「冷風扇? 冷風機とは違うの?」
「気化熱を利用して冷たい風を出すのが冷風扇です。水を入れる必要があるので少々手間がかかりますが」
「何それいいじゃん」
「ただし気化熱を利用しているので湿度が高いと効果が弱まりますし、締め切った部屋で使えば当然湿度が上がっていくので換気が必要になります」
「意味ねえ!」
折角冷えたのに換気しなければならないという本末転倒に叫ぶアマテラス様。
冬にストーブつけても換気はするし多少はね?
「でも確かに扇風機よりはいいかも。タヂカラオに頼んで買ってきてもらおうかな」
「それは構いませんが。水を使う都合上カビが生えやすいので管理には気を付けてください」
「何それ恐い」
冷風扇に限らず空調のフィルターなどのカビには注意しましょう。
手入れしないのダメ。絶対。
今日も高天原は平和です。