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溶ける

「ほう。貴女が新しい魔王か」

「そういうアンタは鮮血公さんで間違いないね?」


 魔王城の玉座の間にて。

 対峙する魔王様と前魔王の重臣だったグラウゼさん。

 相変わらず知ってる人がいない場所では吸血鬼ムーブするグラウゼさんを見て、魔王様内心で「こっわ。これ本当にあの百合ボケ吸血鬼の父親?」と血の繋がりに疑問を持っています。


「大変やったねえ。私に入れ替わる形で逆召喚されたらしいやん」

「勘違いされては困る。私はかの女神がこの世界に介入するのを察知し自らあちらへ赴いたのだ」

「え、何それ凄い」


 忘れられがちですがグラウゼさんはアマテラス様が直接逆召喚したわけではなく、アマテラス様が行おうとした逆召喚に介入して日本にやってきた、一歩間違えればガチでヤバい被害を出していたであろう危険人物なのです。

 いらんことしたせいで返り討ちで酷い目にあっただけだよねとは事実は時に人を傷つけるので言ってはいけません。


「そんなアンタなら私みたいな魔王は認められへんやろうねえ」

「人間との融和のことか? 魔王である貴女がそれを掲げ皆が是とするならば私がとやかく言うことではないだろう。もっとも、私個人が貴女に忠誠を誓うつもりはないが」

「あ、やっぱり個人的には受け入れられん?」

「否。私個人の思惑はどうあれ、かつて鮮血の名の下に人々を恐怖へ陥れたのは紛れもない事実。貴女のためを思えばこそ私のような過去の遺物は表舞台には立つべきではないだろう。どうやら娘も無事務めを果たしているようだしな」

「あ、うん。そうやね」


 務めは果たしているがプライベートで色々やらかしやがることに文句を言いたいものの、グラウゼさんが純粋に娘を信用しているらしくて言い出せない魔王様。

 そういうところで遠慮をするからいいように押されるのですが基本的にお人よしなので仕方ありません。


「後のことは今まで通り娘に任せて私は隠居することにする。無論私の力が必要ならば喜んで力を貸そう」

「え、いいの?」

「無論。今は貴女が我々魔族を統べる王なのだ。そのことをお忘れなきように」

「……分かった」


 魔王様の返事をきくと、頭を下げて玉座の間から出て行くグラウゼさん。

 それを見送ると魔王様は疲れたように息をつきました。


「魔族はみんな脳筋やと思とったら一番頭良さそうなのが流出しとったんかい。何あの有能な臣下みたいな忠告」

「グラウゼ様は前の魔王様の右腕でしたからねー。思う所もあったのでは」

「詳しいなあスケルトン」

「私下っ端ですがそれなりに長い古参ですんで」


 トラップ担当のスケルトンさんの発言に驚く魔王様。

 地味に日本対策会議に付いて行って補佐を完璧にこなしたりとそれこそ隠れて有能な魔材です。


「ところで陛下。魔王城の周辺に猫を放してもいいだろうか。私の眷属故に人様の敷地で粗相などはしないよう躾けてある」

「急に戻ってきたと思ったら私はオカンかいって多!?」


 そして戻ってきたと思ったら猫の飼育許可を訴えてきたグラウゼさんと、床を埋め尽くさんばかりの猫集団を見て度肝を抜かれる魔王様。

 今日も魔界は平和です。



 一方高天原。


「……暑い」

「確かに」


 まだ五月だというのに急激に上がった気温にノックアウトされ畳に転がるアマテラス様と、流石に否定できず肯定するツクヨミ様。

 令和ちゃんは初めての夏だから気温が上手く調整できないのです。


「元号すら擬人化する日本人は大丈夫なのかな」

「大丈夫かと言えば大丈夫ではないと思いますが、ある意味日本人らしい考え方だと思いますよ」

「ツクヨミ頭大丈夫?」

「ストレートに失礼ですね」


 真顔で弟の脳みそを心配するアマテラス様に憮然とした様子で返すツクヨミ様。

 話題が話題なだけに仕方ありません。


「日本人はどうにもならないことは『仕方ない』と受け入れて上手くやり過ごそうとしますからね。加えて自然崇拝的なアニミズム思想が根付いていますし、暑いのは姉上のような太陽神が荒ぶってるからだとか、逆にミズハノメ様のような水神の機嫌が悪いから雨が降らず暑いのだとか考えて納得するのと似たようなものでしょう」

「……つまり令和ちゃんは新たな神だった?」

「違います」


 飛躍したアマテラス様の考えに冷静につっこみをいれるツクヨミ様。

 でも何でも神様にしちゃうのが日本人なのであるいは?


「というか私逆に暑いせいで荒ぶる余裕すらないんだけど」

「姉上本当に太陽神ですか?」

「また岩戸に籠ってやろうか」

「すみませんでした」


 ツクヨミ様から放たれる神としての存在の根幹すら疑う発言。

 それに対して伝家の宝刀を抜くアマテラス様と即座に謝罪するツクヨミ様。

 今日も高天原は平和です。

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