文字だけなのにバレバレな正体
「ユキ。相談があるんだが」
「ごちそうさまー」
メルディア王国の王城にて。
何やら真剣な顔で話し始めるハインツ王子とパンと手を合わせて食後の挨拶をすると立ち上がるオネエ。
順調にオネエの王子への扱いが雑になっています。
「……給金減らすよ?」
「なんなりと御命じください我が主」
しかしお金を質に取られ即座に跪くオネエ。
オネエ自身はそんなにお金は使いませんが、オネエが雇っている使用人たちのお給料は当然オネエが稼がないといけないので減るのは困るのです。
「その前にグレイスは近くにいないね?」
「グレイスなら今日は非番だから城には来てないわよ。ってまさかまだ悩んでるの?」
「事情が変わってね。ほら。シーナ王女が戻ってきただろう」
「ああ。日本に行ってたガルディアの王女様ね」
「彼女は元々私と婚約の話が上がっていてね。それが戻ってきたのだから後はどういう流れになるか分かるだろう?」
「それ王女様が居ない間に勝負を決めなかった王子の自業自得じゃない」
「私の部下が正論しか言わなくて辛い」
現状を説明したら即座に駄目だしされて机に沈むハインツ王子。
相変わらず恋愛に関してはヘタレなようです。
「でも実際どうしたいのよ。今からグレイスのこと持ち出すのは悪手でしょう。あの子有力貴族でも何でもないんだから、今更言っても『じゃあグレイスは側室で王女様は正室に』ってなるだけでしょう」
「……ユキが少し脅しをかければみんな黙らないだろうか?」
「そんなの私が目の敵にされるじゃない。いやよ『あいつうざいから〆ようぜ』なんて状況になるの」
「ユキなら全部返り討ちだろう」
「そういう悪意に晒された状態が嫌だって言ってるのよ。私みたいなのが力にものを言わせて政治にまで口を出すのは問題なのは間違いないし。そんなことになったら私日本に帰るわよ」
「それは困る」
返り討ちなのは否定しないものの結構真面目な理由で却下するオネエ。
やはり一部のことに目をつぶれば割と常識人です。
「そもそもお相手の王女様の気持ちはどうなの」
「間違いなく私には惚れてないし、にこやかに話しているようでいて内心見透かされてそうで恐い」
「頼りになりそうな王女様ね」
「何でそんな感想になるのかな!?」
オネエの言葉につっこみを入れるハインツ王子ですが、オネエとしてはグレイスに王妃様なんぞやれるとは思えないので、むしろシーナ王女に正室になってもらってグレイスが側室の方がいいのではとすら思っています。
貴族めんどくせえ。
「もし。シーナ王女のことでお悩みなら耳寄りな情報があるのですが」
「……誰アンタ?」
唐突に話しかけてきた青年を見て眉を顰めるオネエ。
悪意を感じないので接近は許しましたが改めて見て思いました。こいつは悪者ではなくとも間違いなく曲者だと。
「というか後ろに居るのカガトくんよね?」
「いえ。俺は通りすがりの謎の魔術師です」
「せめて仮面でもかぶって言いなさいよ」
素顔晒したまま堂々と身分詐称をするカガトくんにつっこむオネエ。
一方の青年は「ハッハッハ」と胡散臭い笑みを浮かべています。
「それで、こっちは謎の紳士ってところかしら」
「いえいえ。私程度は紳士見習いとでも。ハインツ殿下に提案があって参りました」
そう言って頭を下げる自称紳士見習いと足代わりにされて迷惑そうな顔をしている謎の魔術師。
果たして二人の目的とは。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「よもつぐへーってどこまでが含まれるんだろう」
「よもつへぐいです姉上」
何やら悩んでいるアマテラス様につっこむツクヨミ様。
黄泉戸喫というのは黄泉の国の火で炊いたご飯もしくは黄泉の食べ物を食べることであり、イザナギ様が黄泉にイザナミ様を迎えに行ったときには既にこの黄泉戸喫を行ってしまっていたために帰ることができなかったとされています。
その割にはこの作品のイザナミ様アグレッシブに動き回ってるよねとかつっこんではいけません。
「それで。何故いきなり黄泉戸喫の話に?」
「いやこっちから食材持ち込んで黄泉でバーベキューしても黄泉戸喫に含まれるのかなって」
「まず黄泉でバーベキューしようなんて発想がどこから湧いて出たんですか」
地獄の炎でバーベキュー。
中々にロックです。
「いやー。たまにはこっちからお母さんに会いに行ってなにかしてあげようかなと」
「そこで何故バーベキューという発想に。食べ物は確かに判定が不安ですしお酒でも持ち込めばいいのでは?」
「大丈夫? 清酒持ち込んでお母さん浄化されたりしない?」
「だから母上を何だと」
でも確かにちょっと心配になったけれど口には出さないツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。