天皇彌榮
「お久しぶりですお兄様」
「ああ。会いたかったぞシーナ」
そう言って久しぶりに顔を合わせた愛しい妹を抱きしめる王様と苦笑するシーナさん。
一見すると仲の良い兄妹ですが王妃様に色々言われてこれでもまだ王様は自重しています。
王様の妹愛に底はないのです。
ちなみに王妃様がいなくなりまた仕事しなくなるんじゃないかと疑われた王様ですが、文官に「シーナ様が戻ってきてしばらくすれば王妃様も戻ってくる。両手に花ですね」と言われてすっかりうかれてばりばり働いています。
それ両手に花じゃねえだろという常識的なつっこみは後が面倒なので誰もしませんでした。
「向こうでの生活で何か不自由はなかったか? それとグライオス殿も日本に居たらしいな。シーナのことだから大丈夫だとは思うが何か粗相はしていないか?」
「いいえ。日本の皆さんはとてもよくしてくださいました。それにグライオス様も、とてもお優しい方でしたよ」
同時にとても面倒くさい人だったというのは、今言ったらそれこそ面倒くさいことになりそうなので胸にしまっておくシーナさん。
というか安達家の居候には当のシーナさん含めて面倒くさい人しかいません。
「それとアサヒお義姉さまにもお会いしました。素敵な方ですね」
「おおそうだろう。仲良くやっていけそうか?」
「ええ。とても面倒見がよく男前な方ですね」
「……そうだな!」
男前というどう考えても女性への誉め言葉ではない単語に一時フリーズした王様でしたが、よく考えてみれば確かに男前なので力強く肯定しておくことにしたようです。
王様の脳内で「誰が男前だ!?」と王妃様がつっこみを入れていますが、実は本人その手のことは言われ慣れているので苦笑いでスルーします。
「あと幾つか書籍をいただいたのですが」
「捨てろ。いや捨てなくてもいいがその前に確認させろ」
王妃様から本の贈り物と聞き危機感を覚え検閲を開始した王様でしたが、中身はシーナさんが居なかった間に発表された普通の娯楽小説だと分かりホッとするのでした。
しかし危惧していた方のジャンルは王妃様がわざわざシーナさんに布教しなくても、侍女や王宮に出入りする貴族女子たちの間に出回っているTHE手遅れ。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「明けましておめでとう」
「はいおめでとうございま……明け?」
アマテラス様の唐突な挨拶にとりあえず条件反射で返したものの、果たして「明けまして」は正しいのかと珍しく悩むツクヨミ様。
神様視点でもおめでたい形で改元されるの久しぶりだからね。仕方ないね。
「でも改元でお祝い事って言っても思いつかないよね」
「まあ元号自体が庶民に広がったのも割と最近の話ですからね。それに改元がめでたいのではなくめでたいから改元する場合もありますし」
「あれ? 凶事で改元するのは知ってるけど慶事でも?」
明治時代以降は一世一元と定められている元号ですが、それ以前は同じ天皇の下でも頻繁に変えられており、最短記録は約二か月となっています。
改元の理由としてはよく災害などがあげられますが、お祝い事などでも変えられることはあり、元号が初めて定められた大化から次の白雉へと改められたのは、吉兆とされる白い雉が献上されたことに由来します。
また奈良時代には珍しい亀が献上されたという理由で四回改元が行われており、その内の三つは霊亀、神亀、宝亀ときっちり元号にまで亀が使われています。
奈良時代亀ブーム説。
「まあ祝い方が分からないなら適当に令和饅頭とか令和最中とか食べとけばいいんじゃないかな?」
「なんですかその適当に言ってるのに実在してそうな品々」
そうつっこむツクヨミ様ですが、検索してみたら案の定既に存在している日本人の商魂逞しさ。
今日も高天原は平和です。