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「ほう。貴様がカガトとやらか」
「お、お初にお目にかかります」
フィッツガルド帝国の王宮の一室にて。
異世界の門を開く魔術について講義するために顔を合わせたカガトくんとグラウゼさんですが、予想通りにというか予想以上にカガトくんがビビっています。
内心で「これ本当に幹部クラス!? 実は前任の魔王なんじゃねえの!?」と脳内会議始めるくらいビビっていますが、カガトくんが知ってる比較対象の魔王様はただの愉快な姐さんなので仕方ありません。
ついでにグラウゼさんはグラウゼさんで久しぶりに人間に畏怖されてるのでノリノリで吸血鬼ムーブしちゃってます。
「門を開く魔術見事だった。しかしあの魔法陣、隠蔽の術式が混ぜ込まれていて全ては読めなかったが肝心の門を開く術式は記されていなかったな? 最悪あれ自体はなくても術の発動自体はできる、安全装置と敵対者の目を欺くフェイクを兼ねたものと見た」
「み、見ただけでそこまで分かるなんて!」
「フッ。私を誰だと思っている」
誰かと聞かれれば鮮血の公爵(笑)ですが、そんな実態を知らないカガトくんからすれば元魔王軍の幹部にして人類の脅威だった鮮血公(真)なのでますますビビり、グラウゼさんもますますノリノリです。
しかしそのせいでグラウゼさん的には「私にも全部読めないとかおまえ凄いやん」と褒めたつもりなのに本人には「所詮は児戯だな」程度に受け止められてしまっています。
こうしてカガトくんの自己評価がますますズレていくのです。
「あの……ところで肩に乗ってるそれは……?」
程よく場が盛り上がったところで、カガトくんがグラウゼさんの肩を見ながら言います。
「……にゃ?」
そこには「あら? 何か御用?」と片目をあけるお猫様の姿。グラウゼさんが緊急出動するときによく肩に乗せてた白猫です。
「こいつは私一の眷属だ」
「白猫が!? そこは普通蝙蝠とか狼とか百歩譲っても黒猫では!?」
「何を言う。日本では黒猫は幸運の象徴だぞ」
「え、そうなんで……アンタ日本人じゃねえだろ!?」
憤慨して見せるグラウゼさんにもっともなつっこみを入れるカガトくん。
遠慮と緊張がなくなったようで何よりです。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「え? 黒猫って幸運なの?」
「むしろ何で知らないんですか」
驚くアマテラス様にアンタは立場的に知ってなきゃおかしいだろとつっこむツクヨミ様。
世間一般でも黒猫は不運の象徴だと思っている人が多いからね。仕方ないね。
「黒猫が不吉だというのは西洋の迷信ですね。魔女狩りの際には黒猫も一緒に殺されることもあったようです」
「あー、魔女と言えば黒猫みたいな印象あるもんね」
ちなみにペストが流行ったのは魔女狩りで猫が殺されたせいだという説がありますが、魔女狩りが活発だったのはペストが流行した十四世紀ではなく十五世紀から十八世紀なので、最近では関係がないかむしろ順序が逆なのではという説もあります。
「日本では元々黒猫は厄除けや商売繁盛の象徴とされていますね。有名な『吾輩は猫である』のモデルの黒猫も福猫として可愛がられていたそうです」
「え? それ書いたの夏目漱石だよね。じゃあ本当に黒猫が不吉だって印象が広まりだしたのつい最近なんだ」
ちなみに西洋でもイギリスや一部の地域では黒猫は幸運の象徴とされ、ベルギーでは黒猫のぬいぐるみを投げ落としキャッチできた人には幸運が訪れるとされる祭りもあります。
「じゃあ黒猫が横切ったら不吉っていうのも元々日本の迷信じゃないのかな。むしろ幸運なら横切る前に捕獲すべき?」
「真っ先にそういう考え方になるから猫が逃げるんですよ」
手をわきわきとさせ何かの準備運動を始めるアマテラス様につっこむツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。