何事もなかったように続行
「あれ? 生きてたのかいローマン?」
「再会した父親の第一声がそれなせいで死にそうなのですが」
久しぶりの自宅の屋敷にて。居間で顔を合わせるなり放たれたデンケンさんの先制ストレートに死にそうと言いつつも呆れたように返すローマンさん。
一見とんでもない父親に見えますが、ローマンさんの帰国に合わせてわざわざドワーフ王国から戻ってきていた素直になれない親父です。
「リアクションが薄いなあ。陛下と一緒だと聞いたから打たれ強くなっているだろうとは思ったけど」
「何で残念そうなんですか」
「からかい甲斐がないじゃないか」
「少しは息子の成長を喜んでください」
相変わらずな父にさらに呆れながらも、こういう人だからグライオスさんの側近でいられたんだろうなあと改めて納得するローマンさん。
あの暴走超特急には神経が太くないと付き合っていられません。
「それに半分は本気で心配してたんだよ? ローマンは貴族たらんと気を張りすぎるきらいがあるからね。気難しい人間の不興を買って首でもはねられてないかと」
「日本ではいきなり首はねられたりしませんし、そこはグライオス陛下に真っ先に修正されました」
「え? むしろ何で死んでないんだいそれ?」
「グライオス陛下をなんだと……いや大体分かりますが」
人外の吸血鬼やエルフと張り合える元皇帝陛下の理不尽な強さを思い出し、確かによく殺されなかったなと納得するローマンさん。
実際のところその人外たちにもまれたせいでローマンさんも地味にレベルアップしています。
「しかし父上が政から退いたというのには驚きました。家のことはまだしも国はまだ不安定なのでは?」
「んーしばらく様子は見たんだけどね。どうも新しい皇帝陛下には忠誠心がわかないというか」
「むしろグライオス陛下へは忠誠心あったんですか」
「あったとも」
当のグライオスさんがデンケンさんを指して「あいつに忠誠心とかあるか怪しい」と言っていたので驚くローマンさん。
そんなローマンさんにデンケンさんは笑いながら返します。
「そうじゃなきゃ国が割れてほぼ細切れな状況でわざわざ陛下の味方なんてするかい。もっと楽して利を得る道なんていくらでもあったんだから。まあクソ真面目なインハルトのやつが陛下に従ったから僕も加わればイケるかもと思ったのもあるけどね」
「では何故現皇帝陛下には?」
「不安定と言ってもグライオス陛下の時よりはマシだし、僕一人居なくてもなんとかなりそうだと思ってね。あとあの人普通過ぎてつまんないし」
「最後のが本音じゃありませんよね?」
自身が成長したせいか、以前よりは建前抜きで話してくれているらしいデンケンさんに呆れるローマンさん。
そして改めて確信しました。
なんだかんだ言ってこの父親とグライオスさんは同類だと。
「まあそういうわけだからローマンも好きにすると良いよ。国に尽くせなんて言うつもりはないから」
「はあ」
朗らかに笑いながら言うデンケンさんに生返事をしながらも、自分には都合が良いかと呆れたふりをしつつも内心で喜ぶローマンさん。
今日も異世界は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「そろそろお父さんを本気で捕獲した方がいいかなあ」
「実の父親に向かって捕獲とはなんですか」
こたつがしまわれてしまったので畳の上に無造作に転がりながら呟かれたアマテラス様の言葉につっこむツクヨミ様。
転がってる時点で多分本気ではないのでツクヨミ様もつっこみはいれてますがほとんど聞き流しています。
「いや流石にこれだけ顔あわせられないと少し焦るというか。本当に生きてるのか心配になってきた」
「父上が死んだら黄泉の母上がハッスルするのですぐ分かりますよ」
「何それ恐い」
一体イザナギ様が黄泉に行くと何が起きるのか。
少なくともハッスル(性的な意味で)である可能性はイザナミ様の普段の様子からして少ないです。
「それにわざわざスサノオまで巻き込んで追い込み漁みたいなことをするから逃げるんですよ。普通に会いに来れば普通に会うのにあれでは思わず逃げると言っていましたよ」
「追い込み漁て。ん? 言っていた?」
「はい」
「……会って話したの?」
「はい」
繰り返される問いにしれっと答えるツクヨミ様と、内容を徐々に理解してプルプル震えだすアマテラス様。
ぶちといいアマテラス様が追いかけるものはツクヨミ様のところへ逃げ込むようです。
「ずるいー! ツクヨミだけずるいー!」
「え、いや。ずるいとか言われましても」
意外とお父さんっ子だったらしく駄々をこねるアマテラス様とこの反応は予想外だったのか少し焦ってるツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。