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俺たちの戦いはこれからだ!

「いざ帰るとなっても実感が湧かないものでござるな」

「確かに。私が魔術について門外漢なせいかもしれませんが」

「普通の旅のように景色が変わるものでもありませんしね」


 ヤヨイさんの言葉に同意するローマンさんとシーナさん。

 三人が居るのは巨大な魔法陣の描かれた一室。都内にあるとある施設の地下なのですが、その重要性から周囲には警察による厳重な警戒態勢が敷かれていたりします。


 万が一奪い取られても「こっちの世界にこれ(魔法陣)理解できる人間も利用できる人間もいないんじゃね?」とつっこまれそうですが、用心するに越したことはないのです。

 それこそ万が一の確率でこれを理解できてしまうバグった人間や、偶然迷い込んだ一般人に目撃されて「前世で魔王と相打ちになって死んだ記憶が!」とかいう事態が発生する可能性も零ではありません。多分。


「それにしても言われるがままに着替えてはきたでござるが、何故我々は制服なのでござるか?」

「日本で学生の正装と言えばこれですから。あとは私たちが仲良くやっていたというアピールもありますが」

「ああ。確かに今後拙者たちの繋がりが必要になる場面もあるでござろうしなあ」


 普段何も考えずに寝てばかりのように見えるヤヨイさんですが、武家の姫君だけあって一応は政治にも理解はあります。

 故郷に帰れば晴れて問題全て解決などとのんきなことは考えていません。


「まあ拙者は予定より長くなった上に、場所どころか世界も変わってしまった留学の言い訳を父上にしなければならないのが一番の難題でござるが」

「素直に事情を説明すればいいのでは?」

「どうでござろう。父上は厳しいお人故軟弱者とお叱りを受ける可能性が」

「……そんなに厳しいのですか?」

「本気モードのグライオス殿くらいには厳しいでござるな」

「……」


 当初自分を生きてるかも怪しいボロ雑巾状態にしたグライオスさんくらい厳しいと聞き、少し顔を青くするローマンさん。

 挨拶に行くときは時代劇で見た白装束を着ていくべきかもしれない。

 そんな決意をするローマンさんですが、実はヤヨイさんのお父さんは口下手なだけで娘が可愛くて仕方がなく「こんな立派な婿が来てくれるなんて」と感動されるのはまたしばらく後の話。



「これはまた見事な術式だな」

「じゃろう?」


 一方魔法陣を眺めながら何やら話し込んでいるグラウゼさんとリィンベルさん。

 今回異世界への送還を行うのはリィンベルさんなので、グラウゼさんも少し手伝いはしたものの全貌を見るのは初めてなのです。


「徹底的に、神経質とすら言えるほど無駄が省かれている。それに教科書に載せたくなるほど丁寧だ」

「加えて安全面への配慮も凄いじゃろう。二重三重どころか二十重三十重のロックがかけられておる。これで事故が起きるなら人為的なものしか考えられん念の入れっぷりじゃ」

「少し前まで魔術を知らなかった人間が作ったものとは思えん。余程の才と情熱を持っているのだろう。会うのが楽しみだ」


 基本ビビりで用心深いがために無駄に術式にこったせいで、召喚魔術を詳しく教える予定のグラウゼさんからの評価と言う名のハードルが上がりまくるカガトくん。

 でも本人がヘタレなだけで評価自体は的確なので、いい加減カガトくんは自分の価値についてまともに知るべきだと思われます。


「しかしおまえさんも丸くなったのう」

「いつまでも気を張っているのも馬鹿らしかったのでな」


 登場自体は出オチでしたが、逆に言えばアマテラス様が出張ってくるくらいヤバい存在だったグラウゼさんも今では立派な猫ブリーダーに。

 ちなみに連れ帰るはずだった猫たちは「そんないっぺんに送れるか!?」というリィンベルさんの言葉により、後日グラウゼさんが自分でちまちま転送することになりました。


「わしがおぬしにかけていた服従の呪も世界を越えれば自然に切れるじゃろう。どういうわけかあちらの世界も最近は平和なようじゃし必要なかろう」

「新しい魔王が人間との融和を図っているくらいだからな。……ミラーカは大丈夫だろうか」


 自分と同じで人間を見下し気味だった娘が、果たして新しい魔王の下で無事に過ごせているのかと心配するグラウゼさん。

 実際のところは見下すのはデフォルトながらもそれを隠して演技するのも苦ではないので、むしろ魔王軍の中でも一番と言えるほど生き生きとしています。


「さて、名残惜しいが別れの時間じゃ」

「人間とは違って私たちにとっては一瞬のことだろう」

「なんじゃ。また会いに来る気があったのかおぬし」

「家族に会いに来るのがおかしいか?」

「……」


 なんかキャラが違うことを言ってるグラウゼさんに一瞬呆気にとられるリィンベルさん。

 一方グラウゼさんはそんなリィンベルさんを見てしてやったりと笑います。


「本当に丸くなったのう」

「おかげさまでな」


 それに、あの男は一人にしてはいけない人種だろう。故に酒の席で勢い任せに出たものだったとはいえ、あの約束を違えるつもりはない。

 そう口にはせずに思うグラウゼさん。


 こうして異世界召喚のカウンターとして始まった召喚返し被害者たちも自分たちへの世界へと戻っていき、世界は徐々に本来の姿を取り戻し、そしてまた違った未来へと変わっていきます。

 今日も世界は平和です。

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