新元号絡みのネタを出すつもりだったのに忘れていた
「お久しぶりですお義姉様」
「ひさしぶり。……てほど会ってないけどなあ。まあ元気そうでよかった」
政府が用意したホテルの一室にて。
健康状態は大丈夫か何かヤバい病原体持ち込んでないかと検査されまくり王妃様がぐったりとしていたところ、客が来たと聞き身構えていたら現れたのは数回しか会ったことのない義妹のシーナさんでした。
ちなみに当然のように部屋は最上階です。
待遇良すぎて落ち着かねえと日本に戻ってきた瞬間に感覚が元に戻ってる王妃様は根っからの小市民です。
「そうですね。お兄様はお義姉様を私に会わせようとはしませんでしたし。なのでお二人が今や周辺国に知れ渡るほど熱愛だというのが意外なのですが」
「あー本当何でだろうな」
おまえが居なくなったせいで仕事しなくなったから殴ったら仲良くなったとも言えないので口を濁す王妃様。
というか文章にしても意味が分からないので、王様の内心でどんな化学反応が起こったのかは本人に聞かないと分からないと思われます。
多分聞いても本人以外にはまったく理解できないと思いますが。
「それで。再会を喜びに来たのもあるんだろうけど何か聞きたいことがあるんじゃないか?」
「口実だとは言わないのですね」
「どっちも本命だろ。というかその辺の公私の区切りが薄いのがお偉いさんの面倒くさいところだと学んだんでな」
そう言って苦笑しつつも咎めるような様子もない王妃様に、やはり兄はいい伴侶を得たと改めて納得するシーナさん。
そしてそんな義姉にこれ以上負担をかけたくないとも。
「単刀直入に、私が帰った後どうなるでしょうか」
「メルディアの王子と婚約……ていうのは最近は両国の仲が良いから流れそうだな。シーナを人質同然で差し出すほど拗れてないし、それに向こうの王子様がどうもしばらく結婚を控えたい理由があるみたいでな」
「あら。お兄様とハインツ様はいつも会うたびに喧嘩ばかりしていましたが」
「私が知る限りだと喧嘩するほど仲が良い見本みたいな馬鹿二人だぞ」
仕事では有能なのにプライベートだと残念な王族男子二人。
最近では両者とも笑顔で罵倒し合いながらも息は合っているという謎の連帯感を見せています。
「そんでメルディアと協力関係が深くなったおかげで周辺諸国より強い立場になってきたしなあ。大陸で明確にガルディアメルディアより強国なのはフィッツガルドくらいだが、地理的に竜王山とドワーフ王国が防波堤になってるし。そういうわけで今なら多少の我儘は通ると思うぞ」
「……」
そう言って笑って見せる王妃様に沈黙で返すシーナさん。
その様子に「あれ? もしかして私が思ってる以上にこの子拗れてる?」と内心で冷や汗かき始めた王妃様。
拗れているというかネガティブな方向に覚悟を決めてしまっている状態なので面倒くささでは大差ありません。
「……そうですね。向こうに戻ったらゆっくりと考えてみます」
「おう。そうしろそうしろ」
とりあえず情報が不足しているので話題を終わらせる方向で乗っかる王妃様。
つついたらバジリスク出てきそうな藪とかつつきません。
「……こりゃあやること増えたか?」
そう面倒くさそうにいいつつも、顔は少し笑っている王妃様。
実は一人っ子なので姉妹というものに憧れていたのは別の話。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「なんか異世界の門開いたら世界少し安定した?」
「安定したのは門が開いたからではなくて日本人が戻ってきたからですよ」
口に手を当て何やら考え込んでいるアマテラス様にあっさり答えを返すツクヨミ様。
それに「ほえ?」と首をかしげて聞き返すアマテラス様。
「そもそもの問題として日本人が異世界に召喚された時点で、本来あるべき存在が地球側から無くなり、異世界側にはないはずの異物が増えているわけです。これは地球側の圧が下がり異世界側の圧が上がっている状態とも言えます」
「ふんふん」
「ものは高い方から低い方へと流れるものです。その世界間の圧の不均衡を利用したから逆召喚があんなにピンポイントでぽんぽん手軽に実行できたというのもあります」
「え? もしかしてお母さんが言ってた人間の魂が減るって文句そこに繋がってたの?」
「いえ、アレはほぼ完全にうちの子返せというモンペです」
なのでアマテラス様の召喚返しという対抗策は、世界を考えればほぼ問題ないけれど、イザナミ様的にはこれで勘弁してやるわというぎりぎりの妥協案だったりします。
「あれ? じゃあ召喚返しした時点で圧は均等になったんじゃないの? むしろ今日本人だけ戻って来てるから地球側の圧高くなってない?」
「その辺りは圧ではなく質の問題ですね。例えるなら今までは予備の部品で機械を組み上げていましたが、今は組み立て直したら正規品が見つかって完璧に仕上がったのに余計な部品が余っている状態です」
「何その分かりづらい例え」
説明書を見ながら作ったのに部品が余ってる問題。
プラモデルとかならまだいいですが家具や機械だと重大な問題が発生しかねないので速やかに直しましょう。
「つまり今は質的には前より安定してるけど圧は高まってる状態なの?」
「そうですね。まあ人間数人くらいでどうにかなるほど世界も弱くはないので気にする必要もないですが」
「それ今の私たちの会話の意義全部投げ捨ててない?」
長々と説明しといて結論は「気にしなくていい」
今日も高天原は平和です。