何故かネットもない時代から全国の子供が知っていた替え歌
雛祭り。
桃の節句とも呼ばれる女の子の健やかな成長を願う行事ですが、実は桃の節句と雛人形は元々別のものだったりします。
節句というのは季節の変わり目であり、豊穣や安全を祈願し厄を祓う行事を行っていました。節分でも登場した桃が絡んでくるのは厄払いの意味があるからです。
対して雛人形は元々は平安時代には存在した雛遊びが起源であり、厄を背負わせて川に流す流し雛と合わさり原形となったそうです。
その後なんやかんやあって江戸時代あたりに現在の雛人形を飾り付けるスタイルが流行り始め、男子の行事である五月五日の端午の節句に対する形で女の子の節句となったとされています。
「わざわざ男子と女子にわけて祝い事があるというのも珍しいのう」
「え? ポンポン生まれて区別面倒な人間ならともかく、エルフって子供少ないから一人一人大事に育てたりしないんですか?」
「大事にはするが幼いうちは性差などあってないようなもんじゃからなあ」
そう言いながら七段飾りのお雛様が並べられていくのを眺めるリィンベルさんとエルテさん。
三人官女に五人囃子はもちろん隋臣、仕丁に箪笥、籠、鏡台、茶道具など各種オプションも完備しています。
「いやー、妻が嫁入り道具として持ってきた物ですが、まさか今になって飾る機会があるとは思いませんでした」
そういって朗らかに笑いながら箱からものを取り出してはヤヨイさんに渡していく安達くん。
実際の配置はスマホ片手に誘導するイネルティアさんとヤヨイさんがやっているのでまったく役に立っていないのはご愛敬です。
「しかし奥方の嫁入り道具でござるか。古いものの割には綺麗でござるな」
「まったく使う機会がありませんでしたからね。新品同然ですよ」
ちなみに雛人形について「厄を背負うものだから引き継いではいけない」という説もありますが、厳密には流し雛とは別物ですし何より流し雛とは違ってたっけぇので一概に言えるものではなかったりします。
地域によっても引き継ぐべきかどうか、一人一つであるべきかの考え方は違うので人それぞれだと思われます。
「まあこの家の女性の方々がお嫁に行ってしまえばまた飾ることはなくなってしまいますね」
「アダチ殿が生きている間に結婚する可能性が限りなく低いお二方が居るのでそれはないと思うでござる」
「私は結婚できないのではなくするつもりがないだけですからね?」
「若いのう」
残念人魚と一緒にするなと言うイネルティアさんですが、そんなこと言ってられるのは今の内だけだと鼻で笑う既婚者の余裕リィンベルさん。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「どうしよう。話の流れでスサノオがお母さん川に叩き込みそう」
「流すのは厄を宿した人形であって厄そのものではありませんからね?」
アマテラス様の言葉につっこむツクヨミ様。
遠回しにイザナミ様が厄だと言っちゃってますが、本人に察知される状態ではこの手の失言はしないあたりが流石の要領の良い間に挟まれ次男です。
実際には次男どころではありませんが、だんご。
「というか雛人形って成人しても飾っていいの?」
「特にいつまで飾るかという決まりはないようですね。成人しても結婚するまでは飾るという家庭もあるようですし」
「つまり私が飾っても問題ないと……」
「……?」
途中で言葉を切って意味深な視線を向けるアマテラス様。
しかしその意味が珍しく汲み取れず首を傾げるツクヨミ様。
「……そこは『そういうと思って~』って雛人形用意してくれてるんじゃないの!?」
「流石の私もその展開は予想していませんでした」
アマテラス様の無茶ぶりに素で驚きつつ呆れるツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。