四つ辻に豆を置いたら苦情が来る時代
「年齢の数だけ豆食べましょう」
「何だその新手の拷問は!?」
ケロス共和国の小さな村にて。
唐突に大量の大豆が入った皿を差し出され「俺何かやった!?」と内心テンパり見た目もパニクってるヘタレリーダーことアルカさん。
その後ろでは「歳の数とか無理だよなー」と言いながら、スクナヒコナ様がその小さな体には明らかに入らないだろうという量の豆をボリボリ食べています。
「拷問じゃなくて……おまじない?」
「疑問形になるものをやらせるな」
「だってどう説明すればいいのか……イサオさーん!」
「おまじないでも間違いではないと思いますよ。歳の数だけ豆を食べれば体が丈夫になり風邪をひかないという健康祈願ですね」
「……です!」
「何故おまえが胸を張る」
イサオさんの説明の後にドヤ顔するアスカさんにつっこむアルカさん。
ちなみにスクナヒコナ様の横では「まーた入り浸る男が増えた」とサロスくんが豆を貪り食いながらアルカさんにガンつけています。
「しかし歳の数はキツイだろう。不味くはないがとりたてて美味いわけでもなし」
「しかし不思議と手が伸びますねこれは」
歳の数は無理でもとりあえずと大豆に手を伸ばすアルカさんと、どうやら大豆が気に入ったらしく次々口の中に入れては緑茶をすすり「ふー」と息をつくフィデスさん。
エルフ基準では若いのですが、同い年のイサオさんとつるんでいる時間が長いせいか順調に趣味が渋くなっています。
「そういえば他に食べるものがなく腹いっぱいまで大豆を食べた人が、水を飲んだら胃の中で大豆が膨張して破裂して死んだという話がありましたね」
「ハハッ。恐いなそれ」
「いや、むしろおまえ何で破裂しないんだよ」
イサオさんの話に恐いと言いつつ笑って返すスクナヒコナ様と、むしろおまえは食ってる量的に破裂してないとおかしいだろとつっこむサロスくん。
神様だからね。仕方ないね。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「歳の数だけ豆食べるつもりでもついつい手が伸びてそれ以上食べちゃうことあるよね」
「それは一体何千年前の話ですか」
こたつに入ったままぽりぽり豆を食べながら言うアマテラス様とつっこむツクヨミ様。
ちなみに大豆は縄文時代には日本でも栽培されていたとされる中々に歴史ある食物だったりします。
もっとも以前にも書いた通り節分に豆をまくのは元々桃の代用で始まったものなので、アマテラス様がついつい食べ過ぎたくらいで歳の数を越えるような時代には間違いなく健康祈願で豆を食べる習慣とかありません。
「ああそういえば元々はお父さんがお母さんに桃を投げつけた話だっけ」
「いえ投げつけられたのは母上の配下の鬼ですからね。父上が母上目がけて桃を全力投球したわけではありませんからね」
ちなみにその時の桃はイザナギ様に意富加牟豆美命という名を授けられ神様になっています。
流石神様をポンポン産むことに定評があるイザナギ様です。
「桃の話してたら桃食べたくなってきた」
「そういうと思ってトヨウケヒメに頼んで桃のタルトを作ってもらっています」
「……最近ツクヨミの先読みが正確すぎて恐いというかキモイ」
「キモイとな!?」
敬愛する姉にキモイと言われキャラ崩壊してるツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。