石焼き芋の屋台とか見たことねえ
「本日は牛乳もバターも使わないドーナツを作ろうと思います」
「それはもはやドーナツと言えるのか?」
安達家にて。
イネルティアさんとリィンベルさんの白黒エルフコンビがキッチンでエプロンを纏いお菓子作り真っ最中の模様です。
「しかしただのドーナツでは味気ない。そのため今日は秋の味覚さつまいもを使おうと思います」
「うむ。そのまま焼いて食べても美味しい旬の食材じゃな」
「やわらかくなるまで加熱したこれを潰して潰して潰して……」
「その間に他のものの準備をしておくか」
「そして潰し終わったさつまいもに薄力粉、砂糖、豆乳を混ぜていきます」
「牛乳の代用に豆乳。まあ定番じゃな」
「続いてサラダ油」
「ほう。バターの代わりにそうきたか」
「混ぜ終えたら後はお好みの大きさに丸めて油であげるだけです」
「なるほど。さつまいもと薄力粉の比率は好みで変えてもよさそうじゃな」
「ええ。お菓子作りは計量が命。ですが慣れてきたら好みに合わせてアレンジをくわえるのもまたお菓子作りの醍醐味と言えるでしょう」
感心したように言うリィンベルさんと得意げなイネルティアさん。
流石元意識高い系エルフ。向上心があるだけお菓子作りに慣れるのも早かったようです。
「というわけでこちらが完成したさつまいもドーナツとなります」
「どういうわけかは知らないがいただこう」
帰宅するなりドヤ顔エルフにドーナツをすすめられ、それでも無表情で受け取り口に入れる安定のマカミさん。
普段あまり目立ちませんが安達家の中でも無害でブレない安牌ポジションです。
「む、さつまいものドーナツというからポソポソしているのを予想していたが、意外にしっとりしているな」
「そうでしょうそうでしょう。外はカリカリ中はふわっが美味しいドーナツの秘訣です」
マカミさんの評価に嬉しそうに頷いて見せるイネルティアさん。
ホントちょろいなこのエルフ。
「ところで……あそこで怨念を放っているやつは放っておいていいのか?」
「おのれおのれおのれおのれおのれ」
マカミさんの示した先。
そこにはドアの影から半身だけだし恨めしそうに何やら呟いている神官の姿が!
写真に撮ったら無加工でも心霊写真扱いされること間違いなしです。
「放っておけ。最近イネルティアが自分が作ったお菓子を食べないから拗ねているだけだ」
「いい歳をした男があんなにみっともなく拗ねているのか」
「いい歳をした男が拗ねているからみっともないのではないか。まあ自分が料理当番のときには復活するじゃろ」
「あちらはあちらで単純だな」
普通の人間が見たらドン引きする光景を呆れながらスルーすることにしたらしい流石のリィンベルさんとマカミさん。
イネルティアさんはわざとなのか素なのか背後霊の存在にすら気付いていません。
今日も日本は平和です。
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「さつまいもー」
「どうぞ」
一方高天原。
アマテラス様がさつまいもと言った瞬間懐からホカホカの焼き芋を取り出すツクヨミ様。
なんでホカホカのままなのかとか懐に入れてたら熱いだろとかつっこんではいけません。
「ふあー、秋と言ったらこれだよね。焚火で焼くのがいいんだけど私がやると上手くいかないんだよね」
「姉上は早く焼こうと火に近づけすぎなんですよ」
焼き芋と言っても火に直接さらしたら当然消し炭になるので、熾火になった状態で少し離れた灰の中に入れるのがポイントです。
とはいえ最近では焚火をやろうにも条例などで禁止されている場合もあるので、実際に経験したことのある人は少ないでしょう。
キャンプ場などなら焚火も可能ですが、多くの場合は地面直置きは禁止されているので焚火台を利用しましょう。
延焼して山火事になったら洒落ではすみません。
「そういえばさつまいもっていつの間にか日本に来てたけどどっから来たの? 唐芋とかとも呼ばれてたし中国?」
「いえ、南米です」
「アジアですらなかった!?」
さつまいもの原産地は南米の熱帯地方であり、大航海時代に東南アジアに伝わりそこから中国、琉球を経て十七世紀ごろに日本に伝わったとされています。
当然さつまいもと呼んでいるのは日本だけで各地で様々な呼ばれ方をしています。
「え? 世界の反対側から来たくせに何で日本に馴染みまくってんのこの芋」
「そんなことを言ったらじゃがいもやトマトも南米原産ですよ」
ちなみに中世ヨーロッパ的な世界を舞台にしてじゃがいもをだしたら「何でじゃがいもが存在するんだ!?」とつっこみを入れてくるじゃがいも警察が出動してくるので、カウンター用にじゃがいもが普及するまでの設定を用意しておきましょう。
世界規模で活動しているのでアニメでやろうものなら世界中からつっこみがきます。
「……美味しいからいいか」
「それでこそ姉上です」
疑問は放り投げて焼き芋を引き続きほおばるアマテラス様と頷くツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。