ごめん実はシイタケそんなに好きじゃない
「いやー、秋野菜も順調に収穫できてますね」
「一時期雨が少ないので心配でしたが、問題なかったようですね」
ケロス共和国のとある小さな村にて。
夏野菜に続き収穫が始まったさつまいもやらシイタケやらチンゲンサイの山を見て朗らかに言う農業少女なアスカさんとホッとした様子のフィデスさん。
その後ろでは白と黒のエルフたちが倉庫に保管する野菜をえっさほいさと運んでいます。
どうやら長い農業生活の間にヘタレダークエルフたちは完全にこの村に馴染んだようです。
「アスカさんとスクナヒコナ様が雨乞いの儀式をやったら本当に雨が降り出したのは驚きましたが」
「ああ、アレ冗談だったんですけどね」
「冗談だったのかよ!?」
二人の後ろでスクナヒコナ様と一緒に秋茄子焼いてたサロスくんからのつっこみ。
アスカさんとスクナヒコナ様がやった雨乞いの儀式というのは、てるてる坊主作って逆さに吊るしただけです。
ちなみにてるてる坊主を作る時に顔を描く人もいるかもしれませんが、てるてる坊主の瞳は願いが叶って晴れになった場合に描くものなので気をつけましょう。
「おまえ神様なんだから雨ぐらい降らせられねえの?」
「雨は俺の管轄じゃないしなあ。温泉なら一応俺の専門だから頑張ればお湯なら降らせられるかもしれない」
「頑張る方向間違ってんだろ」
温泉を湧かせるならまだしもわざわざお湯を降らせる意味とは。
むしろ場合によっては野菜が枯れかねません。
「そういえば秋茄子は嫁に食わすなって意地悪な意味ではないんでしたっけ」
「意地悪な方でも間違いではないですよ。というよりも説が多い上にどれが正解か分からないというべきでしょうか」
アスカさんの疑問にサロスくんが焼いた茄子をつまみながら答えるイサオさん。
秋茄子は嫁に食わすなの解釈としては「美味しいから嫁に食わせるのは勿体ない」と「体を冷やすから食べさせない方がいい」の二つが割と有名ですが、他にも「種がないから子宝に恵まれない」というジンクスや嫁というのは夜目――鼠のことで「鼠に食べさせるな」という意味だという説もあります。
どれが正解なのか分からないのに言葉だけみんな知ってるという色んな意味で意味が分からない状態です。
「体を冷やすならイサオさんもお爺ちゃんなんだしあんまり茄子食べない方がいいんじゃないですか?」
「いや、それがこちらに来てから体の調子がすこぶる良くてですね。農作業を手伝ってもあまり疲れませんし食欲もどんどんわいてくるんですよ」
「確かにイサオは私が知る限り見た目のわりに元気ですね」
「というか俺の分残しといてくれよ」
言ってるそばから焼き終わった茄子を食べまくるイサオさんに、なにやら感心した様子のフィデスさんと引き続き茄子を焼きながら抗議するサロスくん。
「……スクナヒコナ様。もしかしてイサオさんも何か神様の加護でも宿ってんですか?」
「そういやあの爺さんも迷い込んだ系じゃなくて召喚されたタイプだしなあ。ありえるかも」
ただのお爺ちゃん先生だと思われていたイサオさんにまさかのチート特典取得済み説。
今日も異世界は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「秋野菜をまとめて天ぷらというのはどうだろう」
「はいはい天ぷらですね天ぷら」
今日の夕食のメニューをリクエストするアマテラス様と、トヨウケヒメ様に視線でスルーパスをするツクヨミ様。
というかスルーパスはディフェンスの後ろへ抜くパスのことであってパスをスルーすることではありません。
「というかあのお爺ちゃんに加護与えたの誰? 私何も聞いてないけど」
「いえ、誰も加護は与えてませんよ」
「……あれ?」
ツクヨミ様の返事に首を傾げるアマテラス様。
ではイサオさんのあの人生全力で楽しんでる活力はどこからきているのでしょうか。
「あのご老人が召喚されたころには私たちも目を光らせるようにしてましたからね。召喚自体は阻止できませんでしたが、他から余計な介入がないよう手は尽くしましたよ。むしろ人生楽しんでるからこそ活力がわいてるのではありませんか」
「……何て素敵な老後の過ごし方」
「まあしばらくは死にそうにないですね」
仕事一筋なせいで定年退職後にいきなりボケる人も居るので、生きがいは大事。
今日も高天原は平和です。