異世界召喚が多すぎて女神様が暴走しました
前回のあらすじ
異世界に日本人が拉致されてイザナミ様激おこ。
オカンが恐いアマテラス様は、日本人が召喚されたら異世界人を召喚し返すという割りと謎な解決策をとりました。
そして召喚返しされて日本を訪れたのはモノホンのお姫様。
何やってんねんと日本国民から総つっこみを受けるアマテラス様でした。
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「召喚返しが不評な件」
平日の昼間からそんなスレッドを立てているのは誰だろう。
日の本の神であり天津神の主神であるアマテラス様です。
「私なりに考えたんだけど何が悪かったんだろう……ポチッとな」
人間離れした速さでタイピングして書き込む我らがアマテラス様。
しかし打ち方は人差し指だけを使う雨垂れです。田舎のおばちゃん並みに機械にうといアマテラス様には、タッチタイピングなんて高等技術は使用できません。
どうやら最近のインターネットは天津神の住まう高天原にまで進出しているようです。
なんかオモイカネ様が一晩でやってくれたので、アマテラス様はどうやって回線を引いてきたかは知らないしあまり興味もありません。
「俺たちの主神が情弱な件」
「安定のヘタレ女神。そこが萌え」
「天津神がこの先生きのこるには」
そしてネットの住民たちは仮にも自国の主神相手に容赦ありません。
それも仕方ありません。彼らもまさかアマテラス様が本神がそんなスレッドを立てたとは夢にも思っていないのですから。
仮に本神だと発覚してもそのままのノリが続行されそうですが、深く考えてはいけません。
「……き、きのこ先生」
そして一部の意味は分かりませんでしたが、酷評されているのは理解して項垂れるアマテラス様。
しかし批判ばかりで建設的な意見が少ないのは可哀想です。
このままではアマテラス様が第672次天の岩戸事件を起こしてしまいます
どうせすぐに出てきますが、性に五月蝿い昨今ではアメノウズメ様に一肌脱いでもらうのも問題なのです。
「仕返しは賛否あるだろうが、まず召喚された日本人へのフォローが必要なのでは?」
「!?」
ネタという名の不毛な砂漠の中から建設的な意見という砂金を見つけ出し、アマテラス様はハッとします。
そうだ、自分は何を考えていたのだろう。
世界のバランスばかり考えて人間たちのことを考えないなど言語道断。
RPGだったら魔王を倒したあとに黒幕としてラスボスにされかねない思考です。
「でもどうやってフォローすれば……」
太陽神でありかなり強い力を持つアマテラス様ですが、日本だけで信仰されるローカル神なので異世界ではあまり力を発揮できません。
「そうだ! 召喚される世界の神様とお話しすれば……」
『肉体言語ですね。分かります』
ネットの住民たち総つっこみです。
何せ弟が訪ねてきただけで完全武装で出迎えたお姉ちゃんです。
身内相手にそれなのに、まともな交渉ができるとは思えません。
「だまらっしゃい! 私だってやればできるんだから!」
そこはかとなく失敗フラグを匂わせながら、アマテラス様は決意するのでした。
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西大陸でも古い歴史を持つフィッツガルド帝国。
その首都の神殿の地下にて、その儀式は行われていました。
――異世界からの勇者召喚。
その儀式を、参席を許された数少ない人間である皇子とお付きの騎士は呆れ混じりに見ていました。
「神官たちは何も分かってない。魔王退治ではあるまいに、勇者を一人召喚したところで戦争が終わるはずも無いだろうに」
「そうは言うがなグリム。一人の英雄が戦局を変えることなどいくらでもある。……かつての父上のようにな」
「……」
皇子の言葉にグリムは口をつぐみました。
彼が今回の召喚が気に食わない理由は正にそれです。皇子は皇帝のように戦局を変える英雄にはなれない。神官たちはそう思い勇者召喚なぞやらかしたのです。
そしてそれは勇者により今後皇族の権威を削がれかねない可能性も秘めています。
「……来たか」
床に敷かれた魔方陣が発光し、辺りが目映い光に包まれます。
「な、なんですかここ?」
そして現れたのはどこか頼りない少年。
「……うむ! 久々の地上の空気であるな!」
……と、何か髭がはえた筋骨隆々としたおっさんでした。
『だ、誰だぁー!?』
皇子はもちろん儀式に立ち会っていた全員が叫びました。
状況を掴めず戸惑った様子の少年は恐らく召喚された勇者でしょう。
では明らかに状況を理解した上でふんぞり返ってるおっさんは何でしょうか。
「わしか? 我が名はトール! 戦神にして雷神なり!!」
おっさん……もといトール様が名乗りを上げた瞬間背景に雷が落ちました。
室内どころか地下だったような気がしますが雷神だから関係ありません。
「トールって、アース神族のトールですか!? 本物ですか!? 凄い! 異世界凄い!!」
一方傍らに居た日本人の少年。
一緒に居たのが自分の世界でも知られている神だと知りおおはしゃぎです。
異世界だからって神様がホイホイ地上に居たりはしないのですが、そんなことは知ったこっちゃありません。
「あ、あのトール様。何故この地に?」
「うむ、話せば長くなるのだが……」
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ある日アース神族の長であるオーディン様は言いました。
「やべぇ、アマテラスが来る!? フレイあと任せた!」
「いや何で逃げ腰なんですか? あちらは話し合いに来ているだけでしょう?」
「だってアイツ太陽神じゃぞ? アイツら怒ると発光するから苦手なんじゃ。一つしか残っとらん目が潰れるわ」
「神の目がそんな簡単に潰れるわけがないでしょう」
「うちに太陽に対抗できるのは……そうじゃ! 雷なトールに任せよう!」
「聞けや」
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「……というわけでな」
『いやいやいや』
何か説明が終わった感を出しているトール様ですが、まったく何も終わっていません。
隣の少年は「アマテラス様すげぇー」とよく分からんポイントに感心しています。
「まあアマテラス殿はな、自分の子供とも言える人間が異世界で無事に過ごせるか心配だったらしいのだ。だからわしはこう言った。
『ならばわしが共に行き面倒を見てやろう!』と」
『いやいやいやいやいや』
どう考えてもおかしい解決策に、その場に居た全員が首を一斉に横にふります。
普通人間一人を守護するために神様が降りてきたりはしません。
どんだけ暇だったのでしょうかこの雷神は。
「というわけで、喜べ坊主! わしがおまえを一人前の戦士にしてやろう!」
「すげえ神様が師匠だ! ドラゴンとか倒せるようになれますか!?」
「応! ドラゴンも巨人もなぎ倒せるまで鍛えてやるわ!」
戸惑う現地人を置き去りにしてハイテンションな日本人と神様。
今日も世界は大体平和です。
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一方日本の国会。
「ほう、ここが日の本の国とやらか。なるほど室内だというのに光に満ちているな!」
『だ、誰だぁー!?』
突然国会の真ん中に現れたのは、赤い豪華なマントを羽織った初老の男性。
その顔や体には無数の傷痕が走り、どう見てもかたぎではありません。
「あー、私は日本国の外務大臣をつとめております安達と申します。失礼ですが貴方は?」
「む? アマテラス殿から聞いておらぬか? 事情説明はしたらしいのだが」
またアマテラスか!?
そんなつっこみが国会を包みますが、召喚返しされた本人が事情を分かってる辺りアマテラス様も進歩しています。
きっと次辺りは召喚返し前にお知らせくらいは入れてくれるでしょう。
「ならば名乗らねばな。わしはグライオス・フォン・フィッツガルド! フィッツガルド帝国皇帝である!」
皇帝来ちゃった。
事情を理解した国会議員たちは、遠い目で虚空を見つめるのでした。
今日も日本は平和です。