猫集会に偶然遭遇し「何だこいつ」という目を向けられる
「ふう。ようやくこの時間帯も涼しくなってきたか」
太陽が山に隠れたばかりでまだ少し明るい夕暮れ時。
最近割と昼間でも活動しているグラウゼさんが、相変わらず現代日本には馴染まない貴族メンルックな格好で街を徘徊しています。
最初は地域住民も「何か飛んでる!?」と驚いていましたが慣れました。
夕暮れ時に飛び始める害のない蝙蝠みたいなもんです。
蝙蝠見たことないという人も居るでしょうが、夕方に何かひらひら飛んでたら大体それが蝙蝠です。
意外と可愛い顔をしていますが捕まえるのは可哀想なのでやめましょう。
「ほら猫共、水の替えをもってきてやったぞ」
「にゃー」
そして近場の公園に来るなり、幾つか設置されている器にどこからともなく取り出したミネラルウォーター(軟水)を入れていくグラウゼさんと、集りはじめる猫たち。
これも最早地域住民には見慣れた光景であり、最近ではグラウゼさんは「猫おじさん」と呼ばれていたりします。
初登場時の中二感溢れる威厳は何処に行ったのか。
ちなみに猫にミネラルウォーターは勿体ないと思う人もいるかもしれませんが、お猫様というのは気ままに生きているようでデリケートであり、水道水はカルキ臭くて嫌がったりお湯の方が好きだったりと好みにも結構個体差があります。
中には気に入らないからと水を飲まなくなりそのせいで病気になるというロックな生き方を貫くお猫様もいるので、いかにして水を飲ませるかというのは猫を飼う上で重要なポイントだったりします。
また一口にミネラルウォーターといっても、カルシウムやマグネシウムなどの含有量の多い硬水を猫に与えると、尿路結石の発症率があがったりと健康に影響が出るので、硬度の低い軟水をあげましょう。
ということを書いてなかったら感想欄で指摘されまくりました。本当に申し訳ありません。
みんな猫好きだな!
「しかしおまえたちもこの暑いのによく屋外で過ごせるな」
「にゃー」
「そうか。なるべく動かないのがポイントか」
「にゃー」
「何? 熱中症で倒れた老人を見つけて知らせただと? よくやった。ジャーキーをやろう」
「にゃー」
猫の報告を聞きジャーキーを配り始めるグラウゼさん。
猫と話しているのを聞かなかったら完全にただの猫好きなおっさんです。
「にゃー」
「何? 駐車場の車内に子供が置き去りにされていただと? ……夕方とはいえ気になるな。案内しろ猫!」
「にゃー!」
そう言うと白猫を肩に乗せ颯爽と現場へ急行する最早ただのいい人なグラウゼさん。
今日も日本は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「ぶちって水あんま飲まないけど大丈夫なの?」
「自分で水道の蛇口開いて飲んでますよ」
「小器用!?」
相変わらずあまり懐かずマイペースなぶちの生き方に驚くアマテラス様。
猫の中には流水が好きという個体も居るので、水を循環させる機構のついた給水装置とかも売ってたりします。
というよりも「水は与えられるものじゃない。自分で勝ち取るものだ!」という考え方で、餌皿の水には手をつけない個体もいるそうです。
やはりお猫様はフリーダム。
「その後流しっぱなしだからやめてほしいんですけどねー」
「襖も自分で開けて閉めずにそのままどこかへ行ってしまいますしね」
「まったく誰に似たんだか」
トヨウケヒメ様とツクヨミ様の言葉に見事なすっとぼけっぷりを見せるアマテラス様。
猫の手で押すことはできても引くのは難しいからね。仕方ないね。
「というか特に教えてないのに何でそういうことは覚えるのかなぶち」
「見様見真似でしょう。といいますが今気づいたのですが」
「何?」
本当に今気づいたのかハッとした様子のツクヨミ様と、今度は何だと首を傾げるアマテラス様。
「餌は一応食べますが自分でも狩りをしていますし、水は皿から飲まず勝手に蛇口開いて飲むということは、ぶちのやつ飼われているという自覚すらないのでは?」
「……」
飼い主でありながら格下に見られているのではという疑惑はありましたが、まさかの飼い主とすら思われていない疑惑。
……何だいつものお猫様じゃないか。
「そ、そんなことないよねぶち!?」
「……」
「ぶちー!?」
「本当にマイペースですね」
アマテラス様の必死の声にも応えず、無言でクールに去っていくぶち。
今日も高天原は平和です。