表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

198/528

イルカが遊ぶためにつつかれまくる河豚

「貴様がこの国の次期大公と目されているカオルとや」

「間に合ってます」


 大陸南部にあるアルジェント公国の海辺の街にて。

 今日も元気に漁に行こうとしていたカオルさんでしたが、ドアを開けた瞬間彫りの深い男の顔が真ん前にあり何か威嚇されたので、即座にドアを閉めました。


「どうしたのカオル?」

「いや、疲れてんのかなあ。何か大公さんとは違って本当にお偉いさんぽいお兄さんがドアの前で仁王立ちしてたんだけど」

「はあ?」


 眉間をぐりぐりと押しながらディレットさんに言うカオルさんですが、大公さんだって本当に偉い人で間違いではありません。

 ただその性根が限りなく小市民ぽくて貧乏性なだけで。


「こんな日も昇ってない朝っぱらからそんなお偉いさんが訪ねてきたりしないんじゃない?」

「うん。そりゃそうだ。やっぱ見間違い……」


 ディレットさんの言葉に納得し、もう一度ドアを開けたカオルさんでしたが。


「貴様がこの国の次期大公と目されている」

「ちょっと話進まないから黙れ」

「ゴフゥッ!?」


 やはり偉そうなお兄さんはそこに居て、しかし何故か地味目なオネエさんに貫手で鳩尾を貫かれ膝から崩れ落ちました。


「あー。うちのが騒がしくてすまない」

「えーと……大丈夫なんですかそれ?」

「こんぐらいで本当に沈むなら私も楽なんだがなあ」


 そう言ってため息をつく地味めなお姉さん――ガルディア王国の王妃であるアサヒさんと、蹲りながらもビッと親指を立てる王様。


 竜殺し一歩手前な王様だけあり、実は王妃様の攻撃ではそんなにダメージ受けてません。

 それでも王妃様の「黙れ」という言葉の通りくらったふりして黙る流石の愛妻家です。


「私は利根川アサヒ。聞いたことあるだろうが日本人だ。こっちは夫でガルディア王のリチャード。で、おまえが浅口カオルで間違いないか?」

「あ、はい。もしかして先輩から聞きました?」

「ああ国生オネエから聞いたというのもあるんだが、どうもリチャードがおまえに興味持っちゃったらしくてな」


 そう言われて視線を向けると、待てをされた犬のように蹲りつつも、上目遣いにこちらを窺っている王様と目があうカオルさん。

 あ、コレ絶対面倒くさい人だ。


「異世界の門が開けるようになったのは知ってるだろ。それで妹のシーナ王女もこちらに帰ってこられるようになったわけだが、それと同時にどうしても見合いだの政略結婚だの生臭い話も浮上してきちまうわけでな」

「それが俺と何の関係が」

「シーナ王女と結婚できる可能性がある男を一人残らず試して回るつもりらしい」

「俺関係ねえ!?」


 どう考えても王女様と結婚とか無理だろと主張するカオルさんですが、それに説得力がないのがいつの間にか彼が立たされている今の立場。


「だっておまえこの町の領主で、国主の大公に気に入られてて、その娘とも婚約してるんだろ。次期大公じゃねえか。この国自体も最近急速に発展してるから懇意になりたいって国は多いし、側室でもいいからとおまえを狙ってるの結構いるぞ」

「……」


 王妃様に言われて改めて自分の立場がいつの間にかえらいこっちゃになってるのに気付いたカオルさん。

 これも全て大公ってやつの仕業なんだ。


「いやその大公さんの娘さんとの婚約は……」

「あー分かった。大体分かった。でも面倒だからリチャードには『俺は彼女一筋で他の女と結婚するつもりはない』とでも言っとけ」

「何でそんな」

「あいつ妹のことになると粘着質なんだよ。本人の謎基準で納得するまで付きまとわれるぞ」

「話はすんだか?」


 王妃様がそこまで言うと、もう待てなくなったのか立ち上がりカオルさんと王妃様の間に割り込んでくる王様。

 どちらかというと王妃様が他の男と至近距離で話しているのに我慢できなくなったようですが。


(ふざけんな。これ以上振り回されてたまるか。ガツンと言ってやる)


 そしてそんな王様を見ながら、自分の意思を曲げてたまるかと王妃様の忠告を無視して本音を暴露しようとしたカオルさんでしたが……。


「まずは小手調べだ」

「俺はリーザ一筋なので他の女性と結婚するつもりはありません」


 王様が躊躇うことなく剣を抜いて斬りかかろうとしてきたので、即座に自分の意思を曲げて保身に走りました。

 どんなに強くても根が小市民だからね。仕方ないね。


「ふっ。ならばよし! 未来の妻を大事にしろよ!」


 そしてそれだけで納得したらしく、剣を収めるとエールを送りながら颯爽と去っていく王様。

 マジでこのためだけにわざわざここまでやってきたようです。


「……外堀が……さらに」

「あー、なんかすまん。まあアレだ。慣れると案外楽しいかもしれないぞ?」


 項垂れるカオルさんに微妙な顔をしつつも助言し王様の後を追う王妃様。

 その後カオルさんは漁に行く気にもなれず自宅に戻りましたが、自分でも何が気に入らないか分からないけどとにかく気に入らないディレッドさんが河豚みたいに頬を膨らませているのを確認し、全力でその頬をつつき倒して癒されるのでした。

 今日も異世界は平和です。

追記

活動報告にヤヨイさんの絵を置いてますが、所詮作者の絵なので見るのは自己責任でお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらの作品もよろしくお願いします。

スライムが倒せない
 とある田舎の村の少年レオンハルトは「冒険の旅に出たい」という夢を持っている。
そのため手始めに村の近くに出没したスライムで魔物との戦いの経験をつもうとしたのだが……。
コメディーです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ