水着を服の下に着て行って下着を忘れる
海水浴。
今でこそ夏の風物詩とも言えるイベントですが、一般にレジャーとして楽しまれるようになったのは割と最近であり、日本では明治時代に一般化したとされています。
日本では古くから海に入る行事自体はありましたが、むしろ川で泳ぐことが多かったそうです。
これは海は宗教儀式で使われる場合が多かったことや、江戸時代には鎖国政策により海に近寄りがたい雰囲気があったためだと言われています。
「ほほう。これが海水浴場というものか!」
砂浜で海を前にして、腕組みをして何やら気合を入れている赤いボクサータイプの水着を履いたグライオスさん。
ムッキムキです。しかも露出した肌は傷だらけなので、どう見ても堅気とは思えません。
おかげで一般客が遠ざかり周囲に空白ができています。
「グライオス殿は何をやる気満々になってるのでござるか?」
「恐らく海で泳ぐのが初めてなのかと」
「あー、私も初めての水泳の授業の時は緊張しました」
そしてそんなグライオスさんを少し離れたパラソルの下で眺めている、シーナさんを除いた安達家の学生組の面々。
シーナさんは「安達さんが来ないのに誰に水着を見せるんですか」と辞退しました。
目的がおかしいですがシーナさん自体がおかしいので最終的に何もおかしくありません。
「武士と同じで騎士も泳法は叩き込まれるものなのではござらぬか?」
「それはそうですが。遊びで泳ぐことはありませんね。特にフィッツガルドの帝都は内陸にあるので、海というのはそう気軽に行けるものではありませんし」
「というかヤヨイさん水苦手なのに海来て大丈夫なんですか? 溺れませんか?」
「苦手ではあれど溺れないでござる。良くも悪くも」
「ああ……」
遠い目で言うヤヨイさんと少しひいてるエルテさん。
それはつまり無意識でも泳げるレベルまで水の中に叩き込まれ続けたということであり、現代日本だったら余裕で虐待扱いされる仕打ちです。
「何。浅瀬で遊ぶ程度なら大丈夫でござるよ。これは外れないように気をつけないといけないでござるが」
「ふむ」
そう言って猫耳を隠すための麦わら帽子を深くかぶり直すヤヨイさん。
そしてその様子を見て何やら深く頷くローマンさん。
「言うのが遅れましたが……似合っていますよヤヨイさん。多くの歳月をかけ完成された彫刻よりも今の貴方は美しい」
「いや、もう見えてないでござろうそれ」
「最近慣れて来てますねローマンさん」
ヤヨイさんの手を取りつつ言うローマンさんですが、その目には案の定呪いにより逆まつげが刺さりまくり、このまま干からびるのではないかという勢いで涙が流れています。
ちなみにヤヨイさんは黒のハイネックビキニ。エルテさんは薄い水色のワンピース水着となっています。
画像でくれと思った人はそんなもんねえので諦めて試合終了してください。
「そろそろ私たちも泳ぎますか?」
「そうでござるな。しかし拙者の耳を見られたら注目を集めるので気を付けて……」
「アハハハハハ!」
ヤヨイさんがそこまで言ったところで、突如海から響き渡る女の笑い声とざわつく人々。
「イヤッホウ!」
そして人々の視線が集まるその先には、海を魚雷のような速度で泳ぎまわりハープーンミサイルのように空中へと飛び出す人魚の姿が!
海はべたつくから嫌だと言っていたくせに、いざ海に入ったら懐かしくてテンションが上がってしまったようです。
「ローマン殿。捕獲」
「了解」
そしてそんな注目浴びまくってる人魚を見て、即座に捕獲命令を出すヤヨイさんと従うローマンさん。
しかし最近成長しているローマンさんでも流石に人魚の捕獲は難しかったので、最終的にフェリータさんは水中でも相変わらず理不尽なグライオスさんによって捕獲され「マッチョ嫌ー!?」と叫びながら陸へと連行されました。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「……何でこの流れで私たちは海に行ってないの?」
「いやどの流れですか」
相変わらず高天原の自室で何か言ってるアマテラス様と呆れたように返すツクヨミ様。
大丈夫。日本の広いゲームアニメ業界を探せば水着にされてるアマテラス様とか一柱くらいはいるはず。多分。
「泳ぎたいのならその辺りの川でいいでしょう」
「夏と言ったら海じゃん! ……まさかそのノリで行ったらスサノオが出現するという罠!?」
「いやどんな罠ですかそれ」
最近色々ありすぎて警戒心が高まり被害妄想に至っちゃってるアマテラス様。
別にスサノオ様は海に行ったら生えてきたりしません。
「うん。やっぱ川行こう。ミズハっちも誘って」
「気を付けてくださいね」
そして一人で納得しミズハノメ様を誘い川へ行くことを決意するアマテラス様と、それを監視する気満々なツクヨミ様に白い目を向けるトヨウケヒメ様。
今日も高天原は平和です。