氷に塩を入れて揉め
アイスクリーム。
牛乳などを原料にし冷やした固めたお菓子ですが、その歴史は意外に古く紀元前にはその存在が認められており、中国では三千年前には存在したと言われています。
「で、暑くなってきましたし、アイス売ろうと思うんですよアイス」
「うん。何でそれを俺に言うかな」
ヴィルヘルミナさんの屋敷にて。
突然訪ねてきたきたミィナさんの言葉に呆れながら返す最近インハルト家に馴染んできたカガトくん。
それでもたまにインハルト侯と一緒に食事をすることになりガクブルしています。
「手っ取り早く魔術でアイス量産できないかなと」
「まず魔術師探してくるのが手っ取り早くないことに気付こうよ」
性格がまともというだけでカガトくんが重宝されているように、魔術師は数が少ない上に人格に問題がある人間が多いのです。
そうでなければミィナさんみたいに魔術を商品開発に利用しようと考える人間などもっと出て来ていてもおかしくありません。
「まず自分の研究以外には興味ないのが多いし。お金だって国から補助が出てるし、ないならないで気にしない計画性のない人間ばっかりだしなあ」
「やだなあ。目の前に最近仕事がなくなって暇してる魔術師がいるじゃないですか」
「いや仕事減っただけだからね。暇じゃないからね」
仕事の減った人間の仕事を増やす妖怪が出現。
無茶ぶりと分かってる仕事を無理して完遂すると「お、なんだできるんじゃん」と次からも無茶ぶりされるので、できない仕事はできないとしっかり断りましょう。
「別にいきなり量産したりはしませんよ。とりあえず魔術を利用してアイス作れるかの試験をですね」
「それノウハウが俺に集まるから結局引き続き俺の仕事が増えるパターンだよね」
「この暑い時期にアイスを差し入れしたらヴィルヘルミナさんが喜ぶと思いませんか」
「任せろ!」
主人の名が出たとたんやる気になる忠誠度がカンストしてるカガトくん。
ミィナさんが計画通りだけど納得いかねえという顔をしています。
「ヴィルヘルミナさんだって腹黒いのに何ですか私との対応の差は」
「だってお嬢様は腹黒くても身内には甘いし」
実はヴィルヘルミナさんが黒いことは察していたカガトくん。
でも自分には優しいから別に気にしない流石の忠犬。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「やっぱり夏はアイスだよね!」
「冬にこたつに入って同じような事言ってませんでしたか?」
扇風機を全開にしアイスを食べるアマテラス様と呆れたような視線を向けるツクヨミ様。
ちなみにツクヨミ様が以前言ったように、涼しい地域では本当に冬の方がアイスが売れたりします。
「かき氷もいいけど王道はやっぱりバニラアイス。アイスクリームといったらやっぱりこれだよね」
「まあ姉上が今食べているのはアイスクリームじゃありませんけどね」
「なん……だと……?」
恒例のツクヨミ様による空気読まない暴露に驚愕するアマテラス様。
扇風機を全開にしているせいでアイスが凄い勢いで溶けています。
「アイスクリームは乳固形分や乳脂肪分が一定以上でないとアイスクリームに分類されませんから。姉上が普段食べてる安いアイスの殆どは乳固形分が少ないラクトアイスです」
「……つまりハー〇ンダッツはアイスクリーム」
「完全にイメージで言ってるのでしょうがその通りです」
一般的にアイスの乳固形分の比率と値段は比例するので、アイスクリームは当然値段が高くなります。
もっとも最近ではアイスクリームの売り上げは減少してきており、安価なラクトアイスの売り上げが伸びています。
「……まあ美味しいからよし!」
「それでこそ姉上です」
こまけぇこたぁいいんだよと溶けかけのアイスを再び食べ始めるアマテラス様と、子供舌ですもんねというつっこみは飲み込むツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。