校長の名前とかぶっちゃけ覚えてない
ガルディア王国とメルディア王国。
元は一つの国であった国が分かたれ幾度もの反目と協力を繰り返してきた両国ですが、最近ではガルディア王であるリチャード陛下とメルディアの次期国王であるハインツ王子が仲良く喧嘩しな状態なので、それなりに良好な関係を保っています。
「教頭ー。今期の教育計画の草案ができたので確認が欲しいのですが」
そんなガルディアとメルディアの国境近くにある村にて、最近両国共同運営の教育機関が誕生しました。
「教頭。こちら確認してサインいただけますか」
大陸北部の覇者であるフィッツガルド帝国の学院に負けじと多くの資金と人材を投入された期待の学校。
「教頭。校長がいらっしゃらないので代わりに指示を」
なのですが――。
「……ちょっと待ってください」
その学校で「教頭」と書かれたプレートの置かれた無駄にでかい机の前に腰かけた少女(24歳)がゆっくりと手をあげました。
教頭:学校の教員のトップ。学校で校長の次に偉い人。
校長の補佐をし、必要ならば教育の管理をする
「何で私が教頭なんですか!?」
できたてほやほやの学校にて、ちみっこ先生こと明智リョウコさんの高い声が響き渡る。
「いや、今更言われましても」
それに対する一般教員のつっこみ。
他の教員たちもうんうんと頷いています。
「流されて書類とか処理してましたけどおかしいですよね!? 私何の実績もない異世界人ですよ!?」
「しかし両国で活躍する貴方の生徒たちからの推薦もありましたし」
「というか流されてたのに今まできっちり仕事してたんですか?」
そうなのです。
この学校の建設が決まってからそれなりに経ちますが、その間にリョウコさんの教え子の中から両国の役人になっちゃった人間が何人か出ちゃったのです。
そして「片田舎出身の一般人のはずの彼らに何故そんな教養が?」という疑問の答えがリョウコさん。
もっとも何の後ろ盾もない彼らがこのご時世にあっさりと役人になれたのは、両国のどっかの誰かさんの思惑が大いに絡んでいると思われますが、それをリョウコさんが知る由はありません。
「それに二国共同運営のこの学校の教員のトップを誰にするかというのは政治的な問題も絡んでくるんですよ」
「私たちではどうしても自分の出身国を贔屓するのではという疑惑が出てしまいますからね」
『そこで貴女です』
「はもった!?」
まるで練習でもしていたかのように一斉にリョウコさんを指さす教員たち。
政治的とか言いながら実に仲が良いです。
「別にいいじゃありませんか給料いっぱいもらえますし」
「あ、こっちの書類午後までにお願いします」
「給料とか低くていいから普通の教師がやりたいんですよー!?」
そう文句は言いつつも、言われたとおりに書類に目を通していく社畜の鑑なリョウコさん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「梅雨明けだー!」
私の出番だぜヒャッホウとばかりにテンションが高いアマテラス様。
「まだ沖縄しか明けてないでしょうが」
一方まだまだ出番継続中なミズハノメ様。
なお本州を始めとした場所の梅雨明けは七月中旬以降と思われます。
「でも実際七月入ったらもう夏って感じで梅雨じゃなくない?」
「私に言われても知らないわよ」
「ああ。実際梅雨明けがいつなのかはかなり曖昧ですよ」
「はい?」
梅雨明けが曖昧というツクヨミ様の言葉に首を傾げるアマテラス様。
では先日の沖縄の梅雨明け宣言は一体何だったのでしょうか。
「梅雨の見極めというのはプロにも難しいですから。昔そのせいで『梅雨明けしたのに雨降ってるじゃないか』とクレームが殺到したせいで梅雨入り梅雨明けを断言することはなくなったそうです」
「……じゃあ今回の梅雨明けは?」
「『梅雨明けしたとみられる』とは言ったが『梅雨が明けた』とは言っていない」
「なん……だと……?」
まさかの大人の事情に驚愕するアマテラス様。
世の中世知辛いですね。
「ちなみに後になってから『あ、やっぱりあの時梅雨明けてたわ』と断言することはあります」
「……大人って面倒くさいね」
「そんな他人事のように言われましても」
都合のいいときだけ見た目通りに振る舞うアマテラス様。
今日も高天原は平和です。