参加することに意義がある
風〇魔王城。
……もとい魔王城。
今日も冒険者たちが元気にトラップにひっかかり阿鼻叫喚のシンフォニーを奏でているその城にて、城主である魔王様が何やら悩んでいました。
「最近挑戦者のレベル低ぅない?」
「何処を目指してるのよ」
転がってきた岩を受け止めようとして、そのまま押しつぶされ張り付いたまま転がっていく冒険者を見ながら呟く魔王様につっこむミラーカさん。
でも割と最初からそういう方向性だったので魔王様は間違っていません。多分。
「いや、あのウェッターハーン商会のミィナちゃんに言われてやね、観客席整備してそっちも入場料とるようにしたやん」
「ああやってたわね。ちゃんと整備費回収できたのアレ」
「満員御礼で一週間で回収できた」
「……暇なのかしらうちの連中」
予想していなかった盛況っぷりに自陣の魔族と人間たちに呆れるミラーカさん。
「他に娯楽らしい娯楽無いしねえ。まったくないわけやないけど、こういうみんなで集まってわいわいしながら楽しめるのはやっぱり別やと思うよ」
「はあ。なるほどね」
「それでやね。最近挑戦者のレベルが低いやん」
「そこに繋がるの?」
「うん。つまりこのままでは観客に飽きられるかもしれん。テコ入れが必要や!」
「……」
握りこぶしで力説する魔王様にチベットスナギツネのような顔になるミラーカさん。
顔つきだけでこれだけ有名になる動物とか他に居るのでしょうか。
「まあ要するにそろそろクリア者の一人や二人出て来んと『これ本当にクリアできんの?』と思われてしまうわけやねん」
「まあ確かにどうせクリアできないなんて思われたら盛り上がらないでしょうね」
「そこで! よりレベルの高い挑戦者を招致するために! 第一回風〇魔王城攻略大会(協賛:フィッツガルド帝国)を開催します!」
「あの皇帝暇なの?」
魔王様の暴走かと思ったらフィッツガルドも協力していると聞き呆れるミラーカさん。
でもこの場合は皇帝陛下がトチ狂ったのは暇なのではなく逆に忙しすぎてハイになった結果だと思われます。
「今回はなんとトラップ通路を区画分けし一番奥まで攻略できた順に十名まで賞金が出ます! 我こそはと思う者は我が魔王城へと挑むがいい!」
「誰に言ってるのよ」
こっちはこっちでテンションのおかしい魔王様と冷静につっこみ続けるミラーカさん。
今日も魔界は平和です。
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一方高天原。
「行ってきます」
「行かせませんよ」
颯爽と襖を開け放ち飛び出そうとしたアマテラス様と首根っこ掴んで宙づりにするツクヨミ様。
魔王城に挑むどころか自室すら突破できませんでした。
「我こそはと思う者はー!」
「神が来ることなんて想定しているわけがないでしょう。そもそも姉上は神の力抜きの素の身体能力であんなもの突破できないでしょう」
「参加することに意義がある」
「ありませんよ」
どっかで聞いたような意気込みを語るアマテラス様ですがツクヨミ様にばっさりと切り捨てられました。
しかしツクヨミ様は神が参加するのは筋違いと思っているようですが、話を聞いたら参加したがる神が各神族にわんさか居そうです。
「そういう意味ではスサノオの耳には絶対に入れたくありませんね」
「……つまりスサノオを囮にすれば私にもチャンスが!?」
「姉上ー? 何か言いましたかー?」
「ひってないでひゅ」
アマテラス様のほっぺを両手でひっぱるツクヨミ様と涙目なアマテラス様。
今日も高天原は平和です。