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お父さんと誰かが言うたびにシューベルトの魔王が脳内で流れ始める

「ふーむ。さすがに靴ベラどうなんだ……」


 安達家のリビングにて。

 ソファーに腰掛けなにやらスマホで検索しているローマンさん。


 異世界人がスマホ使ってるのは今更です。

 グライオスさんなどはゲーム好きと暇が重なって自分で簡単なプログラム組み始めています。

 エラー大量に吐き出されて頭抱えるがいい!(八つ当たり


「どうしたのでござるか?」

「ああ、ヤヨイさん。今日もお美しい」


 そんなローマンさんの座っているソファーの後ろからひょこっと顔を出すヤヨイさんと、そのヤヨイさんの手を取って何か言ってるローマンさん。

 以前なら「何を言ってるでござるか」と白い目を向けていたヤヨイさんでしたが、今は告白合戦の影響か少し目線を反らしながら猛烈な勢いで猫耳がピコピコ動いています。

 ローマン爆発しろ。


「いえ。来月には父の日があるでしょう。そこでアダチ閣下に何か贈り物をしようかと思いまして」

「アダチ殿にでござるか?」

「ええ。アダチ閣下はこの日本において私にとっての第二の父のようなもの。その尊敬の念と日頃の感謝を込めて何か送ろうかと」

「まあ確かにアダチ殿は拙者たち学生組の親父殿といったかんじでござるが」


 その原因は本当に養子入りしかねない勢いで慕ってるエルテさんと、それに便乗して母親ポジションをキープし少しずつ外堀を埋めようと画策していたシーナさんでしょう。

 学生組の中に一人だけ明らかに父親だと思ってない人が居るのは気にしてはいけません。


「そういえば以前両親の仲が微妙だといっていたでござるが、ローマン殿は父親と仲はよくなかったのでござるか?」


 いくら身元引受人とはいえ、赤の他人を父親のように慕っていると聞き、もしかして実父との仲はよくなかったのだろうかと心配するヤヨイさん。

 そんなヤヨイさんにローマンさんは「あー……」とそれこそ微妙な声を漏らしながら少し目を反らしています。


「実はいうと少し嫌っていたのですが、今振り返るとそれは単に私が何も分かっていなかったからかもしれないなと」

「またでござるか」


 両親の仲の微妙さに後になって気付いたことといい、もしかしてローマンさんは空気読めないのかと疑い、読めなかったなと日本に来た当初を思い出し勝手に納得するヤヨイさん。

 いい加減忘れてさしあげろ。


「父は兄には政治やら何やらを徹底的に仕込んでいたのですが、私はそのついでというかおざなりというか、あまり厳しくされなかったのです」

「それはローマン殿は家を継がないからでは?」

「そうですね。今思えばその通りなんですが、私はその程度のことにも気付かずに自分は見限られているのだと思っていました。兄のついでとはいえそれなりの教育は受けましたし、暇なときは趣味にも付き合わされたのですから、むしろ兄上が私を羨んでいてもおかしくないというのに」


 そういって懐かしむような顔をするローマンさん。

 ちなみに当のお兄さんはローマンさんを羨むどころか「あいつ妙なところで阿呆だけどこの先大丈夫かな」と心配する余裕すらあったりします。

 狸に育てられた子狸は伊達ではありません。


「私がアダチ閣下を父と慕うのは、代償行為と打算も含んでいるのでしょうね。アダチ閣下との繋がりは国へ帰れば間違いなく私にとってプラスに働きます。まあアダチ閣下は私程度の思惑など読んだうえで付き合ってくれるでしょうが」

「その辺りはアダチ殿は読めないお方でござるな。打算と情が重なり合っているというか。絶妙なバランスで両立してるように見えるでござる」


 どうやらヤヨイさんも安達くんが腹黒いのに人情家というある意味面倒くさい人だというのには気付いていたようです。

 そんな面倒くさい人に惚れたシーナさんも結構面倒くさい女なので、しばらくの間面倒くさい攻防は続くことでしょう。

 リィンベルさんなどは千年以上も生きてるのにその面倒くさい人間の心情が理解できないので「もうおぬしら正面に座って話し合えよ」と思っています。


「まあ深くは考えずに、あちらに帰ったときに父上孝行するための予行だとでも思っておきましょう」


 そう結論するローマンさんですが、実はその父親がローマンさんと入れ替わりで日本に来ちゃうことを知るのは少し後のお話。

 今日も日本は平和です。



 一方高天原。


「……もしかしてお父さんが顔出さないのって隠居状態だから?」

「今更何言ってるんですか」


 ハッとしたように何かに気付いたアマテラス様とつっこむツクヨミ様。

 多神教で世界や国を生み出す役割を負った神というのは、実際に生み出した後は役目がないので存在が薄くなるのはよくあることです。


「私たちに統治を任せたのだからその時点で隠居したようなものでしょう。まあ実際に隠居状態に入ったのはスサノオを蹴りだした後ですが」


 高天原をアマテラス様。夜の国をツクヨミ様。海原をスサノオ様に任せたとされるイザナギ様ですが、しばらくして皆様ご存じのようにスサノオ様が「海とかどうでもいいからおふくろに会いたい!」と駄々をこねたので「じゃあ勝手に行けや!」と蹴り出した後は現在の淡路島へ隠居したとされています。

 淡路島に伊邪那岐神宮があるのはそのためです。


「え? じゃあお父さんの顔見ないのってあっちから顔出さないだけで淡路島に居るの?」

「居るでしょうね。訪ねたら面倒くさそうに逃げるでしょうが」

「何で逃げるの!?」


 父親の心情を冷静に分析するツクヨミ様に対しつっこむアマテラス様。

 もしかすればツクヨミ様は内密に連絡取っているのかもしれません。


「隠居状態だからこそ面倒ごとはそっちで片付けろという姿勢なんですよ。まあスサノオの駄々こねに疲れてもう付き合いが面倒くさくなったのもあるでしょうが」

「またスサノオか!」


 父親が引き籠もり状態なのが末弟のせいだと聞き叫ぶアマテラス様。

 日本神話におけるトリックスターだからね。仕方ないね。


 今日も高天原は平和です。

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