キレ系王妃様の日常
久しぶりのリハビリ回。短めです。
「日本人は残業までしている割には仕事の効率が悪い」
勤勉な日本人。そんなイメージが世界には浸透していますが、仕事が無いのにうだうだして定時を待っていたり、仕事が無いのに同僚の残業に付き合ったりと案外ルーズな一面もあります。
あるんです。
あるらしいんです。
そんな所に是非とも就職したいものです。
しかし実際に日本人の仕事の効率が悪くても、その分努力を続けて先進国にまで発展したのは無視できない事実です。
そしてここにもそんな勤勉な日本人が一人。
「……」
黒髪眼鏡ないかにも出来る女な雰囲気を漂わせる女性。
ご存知ガルディア王国に花嫁として召喚された利根川アサヒさんです。
「……」
無言です。無表情です。
相変わらずの仏頂面で、相変わらずの死後とっぷり(誤字)です。
しかし大きな執務机の上にある書類は山になっていたりはしません。
どうやら王様は王妃様の説得によってやる気を取り戻したようです。
もっとも書類が減ったのは「下らない案件はこっちに持ってこずに下で処理しろよ!?」と王妃様がブチ切れた結果だったりするのですが。
「トイレのタイルが欠けたので修理の予算ください」という書類が来た時は、危うく王妃様の拳で執務机が真っ二つになるところでした。
「やあアサヒ。時間ができたから会いに来たよ」
「帰れ」
即答です。一刀両断です。
王妃様の下を訪れたのは、金髪碧眼のいかにもなイケメンでありこの国の王様。
つまりは王妃様の夫になるのですが、王妃様は書類を見つめたまま全身から「うぜぇ」と拒絶オーラを出しています。
「相変わらずだねアサヒは。まあそこが可愛いんだけど」
「死ね」
王様の言葉に王妃様のオーラが拒絶から殺意に変わりました。
このままでは王妃様が王様を暗殺して女王様になってしまいます。
「……失礼ですが王妃様。陛下に対してその言い様、あまりにも失礼では?」
王様のお付の騎士も思わずそう言ってしまいます。
あまり関係ありませんが、先ほどから「しまいます」を「しまします」とミスタイプしてしまうのは何故でしょうか。
「何、問題無い。確かにアサヒは口が悪いが、ベッドの上では私の絶対王政だからな」
「死ね!?」
どや顔で言い放つ王様に王妃様が丸めた紙くずを投げつけます。
どうやら王妃様はツンデレだったようです。突然のセクハラ発言に顔が真っ赤になっています。
「おまえ言うなよ!? そういうことは胸にしまっとけよ!?」
「私の胸はアサヒへの愛で埋まってるから無理だなぁ」
「やかましい!?」
胸元を掴み上げぎりぎりと絞る王妃様に笑って返す王様。
どうやら仕事では王妃様が主導権を握っていますが、夫婦関係では完全に王様に主導権を持っていかれているようです。
出来る女と見せかけて、裏ではオタク活動に勤しんでいた干物系女子だったので仕方ありません。
「そうそう、今度メルディア王国から使節団が来るんだが、その中に気になる人間が居てね」
「なんだって?」
締め上げられているのに少しも苦しそうな様子を見せない王様がどこからか出してきた紙。
王妃様はそれを受け取ると、どうやら使節団の人員名簿らしいそれに目を通していきます。
「……ユウキ・コクショウ?」
そして目に留まったのは、一つだけ異質な、しかし馴染みのある響きの名前。
その名前を聞いて王様も襟元を正しながら頷きます。
「最近になって第一王子の直臣になった騎士でね。どこからともなく突然現れ、故郷は何処とも知れぬ遠い地だと濁しているらしい」
「……断言はできないな」
王様の言いたい事を理解して首を横に振る王妃様。
つまりはこの人物が王妃様の同郷――日本人なのでは無いかと王様は疑っているのです。
「まあ使節団として来るなら直接聞けば分かるだろ。仮にそうだったらどうすんだ?」
「有能らしいからね。アサヒの事を出して上手くこちらに引き込めないかなと」
「……有能ならやめとけよ。向こうに恨まれるぞ」
大体日本人同士だからってそこまで繋がりを期待されても困る。
内心でそう愚痴る王妃様ですが、実際に相手と対面して意気投合したあまり大騒動を起こすと誰が予想したでしょうか。
今日も異世界は平和です。




