第一印象は大事
「エルテってさ。普通だよね」
「ふえ?」
とある学校の昼休み。
一緒に昼食を食べていた女子生徒の一人に言われ、エルテさんがお弁当の肉巻きアスパラガスをくわえたまま首をかしげました。
「何それあざとい」
「でも可愛い」
「あざと可愛い」
「それ褒めてるの貶してるの……って、にゃああああっ!?」
それを見た女子生徒たちに撫でくり倒され悲鳴をあげるエルテさん。
どうやら異世界人だからと忌避されることなく実によく可愛がられているようです。
「でも普通なんだよねエルテって」
「うぅ、普通って何が?」
「いや、普通の人間だなって」
「ええ?」
言われている意味が分からず首を傾げそうになり、また撫でられそうだと思い寸前で止まるエルテさん。
中途半端に止まったせいで痙攣したみたいになってます。
「ほら、他の異世界から来た人って王様だったりお姫様だったり猫耳犬耳だったりエルフだったりで特殊な人ばかりじゃん」
「ローマンさんは普通の人ですよ?」
「いや、あの人別の意味で特殊だし」
見ず知らずの女子中学生にすら特殊な人認定されているローマンさん。
一番の黒歴史を全国放送されるというある種の処刑をされているので仕方ありません。
「えーと、あ、ナタンさんも普通の人間です!」
「ああ、元神官で神職目指してるっていう」
「国会なかった時期に召喚されたから映像ないんだよねその人」
「でも確かに普通……というか真面目そうな経歴の人だよね」
そして実はローマンさんより特殊(性癖)なのにその様子がお茶の間に流れないせいでまともな人だと思われているナタンさん。
情報封鎖って恐いですね。
「でも神官だから回復魔法とか使えるんじゃないの?」
「一応使えるみたいですけど。そういう魔法って向こうの神様に祈りを捧げないといけないから。今はアマテラス様に仕えてるから自分で封印してるみたいです」
「わあ、やっぱり真面目な人だ」
見ず知らずの女子中学生たちの間でうなぎのぼるナタンさんの株。
将来暴落するのは目に見えているので売り時を見計らいましょう。
「え? でも魔法使えるのが特殊な基準なら私も召喚魔法使えますよ?」
「でも使ってるとこ見たことないし」
「というか成功するの?」
「するよ!? しなかったら私死んでるよ!?」
皆さん忘れているかもしれませんが、エルテさんは魔物に
襲われ大ピンチという場面であのオネエを召喚したある意味全ての元凶です。
日本に来てからもオオアリクイやらパンダやらを召喚して度々動物園のお世話になったりしています。
「え、じゃあ従順と見せかけて裏では鬼畜な眼鏡執事召喚して」
「できないよ!?」
「できないのかよ!」
「使えねえなあ!」
「私が悪いの!?」
「よーしよしよし。悪くないよー。……可愛いなぁ」
同級生の無茶ぶりからの逆切れに涙目になるエルテさんと、そんなエルテさんをヤバい目で見ながら撫で倒す残りの女子生徒。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「……従順と見せかけて裏で鬼畜」
「誰が鬼畜ですか」
チラッと見てくるアマテラス様につっこむツクヨミ様(鬼畜)。
鬼畜以前にそもそも従順じゃないだろとつっこみがきそうですが、アマテラス様の中では自分の言うことを聞いてくれる従順な弟なのです(比較対象:スサノオ様)。
「だってトヨちゃんとの逢引邪魔した人間狂い死にさせてたし」
「……ありましたっけそんなこと」
アマテラス様の言葉にはてと首を傾げるツクヨミ様ですが、狼狽えることなく完全にしらを切っているあたりが正に鬼畜です。
「ええ……。トヨちゃんこんな男のどこがいいの?」
「これで可愛いところもあるんですよ」
「その辺り詳しく」
「やめてくださいよ。トヨウケヒメも説明しなくていいですから!?」
自分がいかに可愛いか解説を始めるトヨウケヒメ様を必死に止めるツクヨミ様と完全に無視してガールズトークを始める二人。
今日も高天原は平和です。