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キャンプでの火の取り扱いは慎重に

「……でないわねえ」

「……だなあ」


 大陸の中央に位置する竜王山の山頂付近。

 軍用の大きなテントの中から外を窺っていたオネエの呟きに、毛布にくるまりながら転がっていた団長が完全にだらけきった様子で答えました。


「やはりそう簡単に出るものではないのではないか? そもそも団長以外に目撃者など聞いたこともないぞ」

「でも伝承が残ってるってことは見た人はそれなりに居るんじゃないかしら」


 グレイスの言葉にそう返すオネエ。

 三人が何故こんな竜の巣のど真ん中とも言える場所でゆるキャン(オネエと団長基準)してるかというと、先日話に出た竜王を誘い出すためです。

 そのためオネエの視線の先には、囮兼お供え物の牛が繋がれています。


 ちなみに今までに何度も竜王と関係ない竜に襲われそうになっては助けているため、牛さんの目が生きることはおろか死すら諦めた悟りの境地に達しています。


「んー、何か条件でもあるのかしら。団長が竜王を見たのってどういう状況だったの?」

「んー? 一人で山籠もりしながら竜を片っ端から倒してたら、いつの間にか目の前に居た」

「いつの間にそんなことをやってたんですか団長」


 どう考えても自殺行為な団長の行動に呆れるグレイス。

 でも実際死んでないしむしろどうやったらこの人が死ぬのか分かりません。


「それが条件ならこの前の大討伐のときに出て来てるわよね。一人でっていうのが重要なのかしら」

「確かに一人で竜王山に来るような阿呆はそうそう居ないだろうが」

「グレイス。今ナチュラルに私を阿呆に分類しなかったか?」

「何か文句でも?」

「え、あ、はい。ないです」


 満面の笑みのグレイスに問われて珍しく狼狽する団長。

 どうやら非常識二人のおもりのせいでストレスがたまっているようです。


「うーん。じゃあちょっと一人でぶらついて来るわね」

「正気か? いや、ユキなら大丈夫だろうが、無茶はするなよ」

「平気平気。それじゃあちょっと行ってくるわね」


 そう言って手を振りながらテントから離れていくオネエ。

 スラム街を裸で歩くくらい無謀な行為ですが、やってるのがオネエなのでむしろ襲ってくる側の安否が気遣われます。


「場所はこの辺りでいいと思うのよね。あからさまに他と違うわけだし」


 オネエの呟き通り、テントをはっている周囲は冬山だというのに雪があまり積もっておらず、標高的に考えてありえない植物も自生しています。

 なので神域的なものではないかと睨みオネエたちも張り込んでいたのですが。


「リンゴまで生えてるわ。いくら涼しい地域に向いたものでも限度があるでしょうに」


 そう漏らしながらリンゴを一つもぎとったオネエでしたが――。


「!?」


 突然背後に巨大な、あまりに大きな気配が現れたのを感じ取り、その場で硬直しました。


「……」


 無言。声をあげることもできず動くこともできない。

 それが異世界に来てからは滅多に感じることのなかった恐怖であると気付き、オネエは唾をのみ込みました。


「……出たわね!」


 それでも丹田に力を込め、即座に振り向くことができるのは流石オネエです。

 ただチートな身体能力を持つだけでなく、度胸まですわっているからこそのオネエなのです。


「……」


 しかしその流石のオネエでもそこまででした。

 振り向いた先に居たのは、銀色の鱗を持った通常の竜より一回り、否二回りは大きい竜。

 背中には金糸を思わせるきらきらと輝く鬣が生えており、オネエを見据える同じく金色の瞳は宝石のような透明感と光沢を放っています。


 何より肌に、魂にぶつかるのは、立っているだけで押しつぶされそうな存在感。

 一目で戦ってはならないと分かる存在。

 団長の言っていた通り、見ただけで格が違うと認識せざるを得ない存在がそこに居ました。


(……もっと真剣に話しときなさいよあの子は。これ逃げるのも無理なレベルじゃない)


 予想以上の存在に内心で愚痴るオネエ。

 さてどうすべきか、ろくに身動きすらできない状態で頭をフル回転させ。


「……食べる?」


 さきほど取ったリンゴをお供え代わりに差し出してみました。


「……」


 対する竜王(仮)は無言。そのまましばらくオネエを見つめ続けていましたが、不意に顔をオネエへと近付けると、口を大きく開けました。


(あ、私死んだわコレ)


 口の中に並ぶ鮫の歯を思わせる鋭い牙。

 噛まれたら痛そうだわぁ、せめて抵抗はしようかしらとオネエが考えていると。


「え、あら? あらら?」


 竜王はカプリと器用にリンゴだけを口の中に収め、用は終わったとばかりに羽ばたき始めると、そのまま霧のようにかすれ消えていきました。


「……なるほど。実体があるかどうかも怪しいわけね」


 その消え方を見て、生き残ったことよりもまず背後に気付かずに現れた理由に納得するオネエ。

 同時にやはり竜というよりは神に近い存在なのだろうとも。


「……とりあえず、お供えも物理的に渡すのは難しそうね」


 さらにどうやらお供え自体は諦めていなかったらしく、そんなことを呟きながらテントへと戻るオネエ。

 今日も異世界は平和です。

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