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小説ぼっちゃんで実は盛大にディスられている松山

「リィンベル様。私はもしかすると重要なことに気付いたかもしれません」

「いきなりなんじゃ」


 とある日の昼下がり。

 お昼ご飯のお好み焼き(卵抜き)を食べ終えデザートのタルトを前にしたところで、イネルティアさんが深刻な様子で言いました。


「もしや私は日本に来て堕落してしまったのではないでしょうか?」

「いやそんな東から太陽が昇るくらい当たり前のことを言われても」


 真顔で何か言ってるイネルティアさんに同じく真顔で返すリィンベルさん。

 あまりに表情が真剣なのでマジで言っているのかギャグで言っているのか分からない対応に困る反応です。


「あんなに肥え太っといて何を今更言っとるんじゃ」

「違います。私が言っているのは肉体ではなく精神の話です」

「焼きおにぎり食べて即堕ちだったじゃろうがおぬし」


 どうやらイネルティアさんは焼きおにぎりを食べて国家に忠誠を誓うという前代未聞の堕ちっぷりを見せつけながら、本人はまだ堕ちていないつもりだったようです。


「私は故郷に居たころ、ただ日々を安寧と過ごし己を高めようとしない同胞たちに苛立ちを覚えていました」

「そりゃエルフなんぞ成人した時点で老人みたいなもんなんじゃから停滞もするじゃろう」

「だというのに! 今の私はただ甘味を貪り己で何かをなそうとしていないこの体たらく!」

「とりあえずコレを食え」

「むっふぉー」


 いい加減鬱陶しくなってきたので、いつになく熱くなってるイネルティアさんの口にいちごタルトねじ込むリィンベルさん。

 そしていちごの混ざった甘酸っぱい餡子の風味に即座に顔を蕩けさせるイネルティアさん。

 ちなみにタルトと言っても一般的な西洋菓子のタルトではなく、餡子をカステラ生地で巻いた郷土菓子の方のタルトです。

 むしろタルトってそれのことだと思ってたからいちごタルトで検索した作者ビックリだよ!


「ふう。菓子の甘味の後の渋いお茶は格別ですね」

「そして舌がリセットされたところでドン」

「むっふぉー」


 続いて口の中に放り込まれた栗タルトにヘブン状態なイネルティアさん。

 リビングの入口で製作者であるナタンさんが神官とは思えないすっごい良い顔しています。


「で、結局何が言いたかったんじゃおぬし」

「ふう。このまま食べているだけでは私自身が何も成長しないので、これを機に自分で料理を学ぼうかと」


 高くなりかけていた意識が落ち着いても肝心の決意は失われなかったのか、まったりとした様子で言うイネルティアさん。

 今ここに数百年単位でレシピを脳内に保存可能な料理人が誕生しようとしています。


「なんですとー!?」


 そしてそれを聞いて雄たけびをあげるナタンさん。

 紳士揃いな読者たちにすら理解されない特殊性癖終了のお知らせなピンチです。


「そんな……では私はこれから何を楽しみにして料理をすればいいのですか!?」

「いえ、別に自分で料理をするからと言って貴方の料理を食べないとはいいませんが」

「神は居た!」


 ちょっと引きながら言ったイネルティアさんの言葉に両手を掲げて天を仰ぐナタンさん。

 仰がれたアマテラス様困惑待ったなしです。


「まあそれでまた太るかどうかは別問題じゃがのお」


 そしてそんなナタンさんを呆れた様子で眺めながら残っていたいちごタルトを頬張るリィンベルさん。

 今日も日本は平和です。



 一方高天原。


「ツクヨミ……私って堕落してたのかな?」


 何やら深刻な顔で言ってるアマテラス様。

 どうやらイネルティアさんを見て自分の在り方を省みたようです。


「本当に太陽神なのか疑うレベルの堕ちっぷりでしたね」


 そしてそんなアマテラス様に容赦なく追撃をかますツクヨミ様。

 相変わらずな影響されやすさに呆れると同時にちょっと期待しています。これで少しはやる気を出してくれるのではないかと。


「……うぇ」

「泣いた!?」


 しかしここでまさかのアマテラス様マジ泣き。

 弟の暴れっぷりに嫌気がさして引き篭もった日本最古の豆腐メンタルをなめてはいけません。


「だ、大丈夫です姉上。姉上が堕落しても特に問題は起きていませんし」

「……私いらない子なんだ」

「そうではなくー!?」


 一度ネガティブになったら止まらないらしいアマテラス様と、珍しくマジで焦ってるツクヨミ様。


「最低ですね」


 そして襖の影から顔を覗かせたトヨウケヒメ様に白い目で見られて今度はこっちが泣きそうなツクヨミ様。

 今日も高天原は平和です。

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