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年末カウントダウンに熱中しすぎて見逃す初日の出

「そういえばグレイス。ちょっと気になったんだけど」

「なんだ?」


 メルディア王国の食堂。

 今日も午前の職務を終え昼食をとっていたところで、オネエが不意にグレイスにそう話しかけました。


「竜王山って竜王なんて名前を冠してるってことは、どこかに竜の王様でもいるの?」

「らしいな。しかしお伽噺のようなものだし、実際に見たものなど……」

「いるぞ」

「イヤァッ!?」


 話をしている最中に唐突に耳元で囁かれ、オネエが乙女チックな悲鳴をあげました。


「何よ、ちょっと脅かさないでよ団長」

「驚いたのはこっちだ。何だ今の悲鳴」

「あら? ……何かおかしかったかしら」

「……いや、よく考えたらおかしくなかった」


 頬に手を当てはてなと首を傾げるオネエと、しばらく考えて何やら感慨深げに頷く団長。

 何だコレ。


「それで、いるって竜王を見た人が?」

「ああ。というかそれ知ってどうすんだおまえ」

「王様ってくらいだから、そいつを倒せば他の竜も大人しくなるんじゃないかと思って」

「あー、やめとけやめとけ。多分逆効果だ」


 オネエの言葉を聞いて少し考えた後、うんざりとしたような表情で手を横にふる団長。


「もしかしなくても、見たことあるのって団長なのね」

「ああ。ありゃなんつーかな。普通の竜とは確かに違う。こう空気っていうのか、ああこりゃ触れちゃ駄目なやつだって、本能的に分かっちまうというか」

「へえ。やっぱり格が違うのかしら」


 説明しづらいのか途切れ途切れに言う団長と、理解できたのか興味深げに頷くオネエ。


「多分ありゃ王様ってよりアレだ。神様だ」

「神様?」

「ああ竜の神様。そんなもん人間が手出してみろ。何が起こるか分からないぞ」

「なるほど」


 神様を殺すという話は実は古今東西色々あったりするのですが、中には代償として何かとんでもないものを失ったり、死んでも普通に祟ってきたりとろくでもない結果が待ち受けている場合もあります。

 団長は獣じみた直感でそれを悟ったということでしょう。


「むしろ何かお供えでもした方がいいかしら」

「何故そうなる」


 オネエの日本人的発想につっこむグレイス。

 祟り神? 祀るから大人しくしててください。


「……いいなそれ」

「いいの!?」


 そしてオネエの奥さんの記憶が混ざってるせいで賛同しちゃってる団長とつっこむグレイス。


「山頂あたりに祭壇でも作りましょうか。すぐに団長に襲いかからなかったのならそれなりに知性があるみたいだし」

「お、じゃあそこに牛何頭か置いてみるか」

「本気でやるのか!?」


 戸惑うグレイスをよそに、着々と竜王へのお供え計画を練るオネエと団長。

 こうしてメルディアに新しい宗教が誕生した……かどうかは皆さまのご想像にお任せします。

 今日も異世界は平和です。



 一方高天原。

 高天原といえば天津神たちが住まうとされ誰もが名前は聞いたことがある場所ではありますが、その位置には諸説あり、実際に日本列島内のどこかにあったのではと解釈している人たちも居ます。

 古事記の記述を信じるならば海の上にあり、常に雲に覆われているということです。


「え? じゃあ初日の出見られないじゃん!?」


 その高天原で新年から叫んでいる主神。

 新年ったら新年です。小説にリアルタイムな時間経過とか持ち込んだらいかんのです。


「今更何言ってんですか」

「だって初日の出だよ! 私がもっとも輝く時だよ!」

「太陽が地球に最も近づくのは元旦ではなく三日から五日ですよ」

「なん……だと……?」


 まさかの時間差に驚愕するアマテラス様。

 地球は太陽の周りを公転しているわけですが、その軌道は楕円形となっているので当然一年を通してその距離に変化があります。

 そのせいでたまに太陽が最も近づくのは夏だと勘違いしている人が居ますが、季節による気温の変化は地球の地軸が傾いていることによる日照時間の変化によるものなので距離は関係ありません。


「って違う。そうじゃない。それ初日の出とは関係ない」

「流石に騙されませんでしたか」

「騙す気だったの!?」


 しれっと表情変えずに言い放つツクヨミ様につっこむアマテラス様。

 どうやらツクヨミ様はボケて流すという新技術を導入したようです。


「まあ初日の出は置いとくとして。ツクヨミお年玉ちょうだい」

「堂々と何言ってんですかこの姉」


 流石アマテラス様。年明けから飛ばしています。

 逆にツクヨミ様が呆れてテンション下がっています。年明けからお疲れ様です。


「むしろ姉上はスセリヒメ等にあげる側でしょう」

「え? あの子もう大人でしょ?」

「堂々と!?」


 清々しい勢いで自分を棚上げするアマテラス様に今度はこっちが驚愕するツクヨミ様。

 コメディーでは基本的に常識人なつっこみ役はフリーダムなボケ役に勝てないので仕方ありません。


「そんなに言うなら母上にお年玉貰いに行きますか?」

「ごめんなさい」


 しかし最終兵器オカンを出され即座に謝るアマテラス様。

 今日も高天原は平和です。

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