この作品だけ異様に編集ページが重くて開くのに一分くらいかかる
「はあ。最近寒くなってきたなあ」
アルジェント公国のとある村。
否。最近開発が進み町になってきているその場所で、今日も漁を終えてきたカオルさんが小舟で帰路についていました。
ちなみに寒くなってきたと言いながらも相変わらず漁は素潜り漁です。
そもそも以前も述べたように素潜り漁とは貝やら海老やらを手づかみで捕る漁なので、銛で魚をぶっ刺すのは素潜り漁とは呼ばないはずですが、じゃあ素潜り漁以外に何て言えばいいんだよ状態なのでもう素潜り漁で良いと思います。
「しかしミィナちゃんのおかげで漁で手っ取り早く金が貰えるようになったのはありがたいな。使いどころあんまないけど」
町の開発のためにやってきたウェッターハーン商会でしたが、最近では他の町へ向けた運送販売ルートも確立しており、町の人々の捕った魚の買取もやっています。
順調に大陸全土に手を伸ばしていくウェッターハーン商会。
その内本当にミィナさんが大陸を影から支配してしまうかもしれません。
「ん? 誰だアレ?」
そんな寒さを筋肉で耐える流石オネエの後輩なカオルさんの視界に、一人の少女が何やら右往左往しているのが入ります。
着ている服こそそこらにいる町娘のそれですが、髪はよく手入れされているのか光沢があり、肌も遠目で分かるほどすべすべです。
「……」
どう見てもお忍びで遊びに来ているどこぞのご令嬢なその姿に、水路の上を小船で移動しつつなるべく身を低くして気配を消すカオルさん。
フィジカル面が強いのであまり目立ってませんが、メンタル面はカガトくん並に常識人かつ苦労人気質なので当然の判断です。
人はいくら鍛えてもオネエのようにはなれないのです。
「そこの方。聞きたいことがあるのですが」
「見つかった!?」
何故と狼狽えるカオルさんですが、小舟の上に半裸のマッチョが蹲ってたら嫌でも目立ちます。
でもそれはそれで声をかけたくない光景なので対処としては間違ってなかったのかもしれません。
結局声はかけられたので無意味でしたが。
「この町の領主であるカオルという方をご存じでしょうか?」
「いえ。知りません」
シンキングタイム零で嘘をつく汚い大人がここに。
カオルさんの言葉を聞いて困ったように眉を寄せる少女。
そもそも俺いつ領主になったんだよと内心でつっこんでるカオルさんですが、以前大公さんに爵位と一緒にもらった土地というのがこの町のことなので、必然的にカオルさんが領主という扱いになっています。
契約をするときは内容を三回くらい読み直した上で隅っこに小さい字で何か書いてないかよく確認しましょう。
「質問を変えます。貴方がカオルさんですよね?」
「何故バレた!?」
再び驚くカオルさんですが、こんな田舎町に明らかな異人種な上に半裸で漁してるマッチョとか何人も居るはずありません。
むしろマッチョが複数人半裸で素潜り漁してる町とか一部の人には大人気になるでしょうが近づきたくありません。
「お父様の言っていた通りの人ですね」
「お父様?」
「初めまして。大公の娘のリーザと申します」
「似てないですね」
「よく言われます」
大公さんの娘と名乗られたものの、親がアレなせいで最早敬う気もないカオルさんと気にした様子もないリーザさん。
日頃の行いって大事ですね。
「お父様からこの手紙を渡すようにと使いを頼まれたので」
「え、お使い? 大公さんの娘さん自ら?」
「人を雇うより秘密が漏れ辛いし、何より安上がりじゃないですか」
「前言撤回。親子ですね間違いなく」
身分じゃ飯は食えねえんだよと言わんばかりの貧乏発言に間違いなくあの父親の娘だと認識するカオルさん。
実際貴族というと贅沢しているイメージがあるかもしれませんが、貧乏貴族というのは普通に存在します。
「しかし何で手紙?」
「ハインツ王子が視察に来るらしいので、口裏合わせかと」
「何だ。それくらい口頭で言ってくれれば……」
そう呟きながら手紙を開いたカオルさんでしたが、その内容が予想外だったのでフリーズしました。
――ハインツ王子の婚約者候補にうちの娘が上がったから「いやうちの娘カオルさんに嫁がせる予定なんで」って言っちゃった☆
「『言っちゃった☆』じゃねえだろジジイッ!?」
中年オヤジからの☆つきメッセージにぶちギレるカオルさん。
このままでは脳の血管がキレてしまいます☆ミ
「ふつつかものですがよろしくお願いします」
「内容知ってんじゃねえか!?」
しれっとした顔で頭下げてくるリーザさんにつっこむカオルさん。
とりあえずその場は帰らせたものの、帰宅したら話をどこかで聞いたらしいディレットさんがほっぺた河豚みたいに膨らませていたので、音を上げるまでほっぺたつつき倒しておきました。
今日も異世界は平和です。