大人になっても頭から離れない九九の歌
「そういえばアスカ。おまえ日本に帰るのか?」
「はい。帰るつもりですよ」
「え“!?」
ケロス共和国の田舎村にて。
昼食にチャーハン作っていたアスカさんと相変わらず肩に乗ってるスクナヒコナ様の会話を聞いて、サロスくんが喉絞められたみたいなうめき声をあげました。
「え……何で帰るんだアスカ?」
「いや何でって。私まだ学生だから、戻ってちゃんと学校卒業しないと」
「アスカ学生だったのか!?」
「それどういう意味!?」
何か聞きようによっては失礼な驚き方してるサロスくんですが、異世界では教育機関とか一部の人間しか入れないので驚くのも仕方ありません。
決してアスカさんが学生に見えないくらい老け顔なわけではないのです。
「そ、その学校俺にも入れるか?」
(お?)
しかしここでサロスくん珍しく積極性を見せました。
歳の割には枯れてる安定思考を捨ててのアスカさん追従です。
「サロスくん。7×9は?」
「え……た、たくさん?」
「うん。ダメだね」
「マジで!?」
小学校二年の問題を答えられず見事に落第宣言されるサロスくん。
異世界に寺子屋とかないので農民なサロスくんに九九言えとか無茶ぶりです。
ちなみにインド人は九九どころか二桁までのかけ算を暗記してると言われていますが、実はインド式かけ算というかけ算がすっごい楽になる裏ワザが存在していたりします。
何故それを学生時代に教えてくれなかったのか。
「勉強したいならガルディアとメルディアで一般人も入れる学校建てるらしいよ?」
「いや別に勉強したいわけじゃなくて……」
おまえが好きだから付いていきたいんだよとは言えず、そっぽをむいてもじもじするサロスくん。
それを見て「ハッ」と鼻で笑うスクナヒコナ様と、サロスくんの気持ちには気付いてるので「男の純情って面倒くさいなあ」と割と酷いこと考えてるアスカさん。
今のところ完全にサロスくんを異性として見ていません。
「まあ学校卒業したらこの村に戻ってくるつもりだし、私の畑や田んぼの管理はサロスくんに任せるね」
「お、おう。任せとけ」
そして絶妙なタイミングで餌を与えられ尻尾ブンブン振ってそうな勢いでやる気をみなぎらせるサロスくん。
ちなみにアスカさんは学校を卒業したらと言いましたが、高校卒業したらきっちり大学にまで進学するつもりです。
異世界でいたいけな少年相手に数年がかりの焦らしプレイ開始が決定されました。
「おまえこいつ病んだらどうすんだ」
「またまた、サロスくんは素直ないい子だからヤンデレたりはしませんよ」
ジト目で言うスクナヒコナ様にそう返したアスカさんでしたが、素直ないい子とヤンデレは共存することを思い知らされるまであと数年。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「……」
「何やってんですか姉上」
アマテラス様がぶちの狩ってきた雀を前にして、両手を合わせて何やら念じていました。
雀とか空飛べるのに猫には狩れないだろと思う人もいるかもしれませんが、割と普通に狩ってきます。
飼われてても狩りはやめない猫の狩猟能力を甘く見てはいけません。
「雀の供養ですか?」
「いや。この雀生贄にしたらお父さん召喚できないかなって」
「父上は雀捧げても召喚されません。それに生贄にするもなにも雀死んでます」
追い詰められているのか割とマジで言ってるアマテラス様に対し冷静につっこむツクヨミ様。
ちなみに生贄というと野蛮な印象があるかもしれませんが、生きた供物を捧げるという意味なのでたまに殺されずにそのまま神域内で飼われる場合もあります。
「それに雀一羽で召喚される父上とか嫌でしょう」
「いや、ほら。家族だから対価少な目でもOK的な」
「そんな家族割みたいな。それに何故今更父上を呼ぼうなどと思ったのですか」
「お母さんに一緒に謝ってもらおうと思って」
「謝る前に事情を説明しに行きなさい」
もはや怒られるの確定になってるアマテラス様に、怒られるような事態になる前にさっさと説明に行けと正論を述べるツクヨミ様。
しかし誰もが正しい行動ができるとは限らないのです。
「だって魂自由貿易状態になったなんて言ったらお母さん絶対に不機嫌になるじゃん!?」
「貿易ではないでしょうに。というか説明せずに実行された方が怒りますよ」
涙目で叫ぶアマテラス様とさらに正論を重ねるツクヨミ様。
足元でぶちが我関せずと呑気にあくびしています。
「そんなに言い辛いなら私も同行しますから。ちゃんと説明しに行きましょう」
「本当!? 本当についてきてくれるの!?」
「本当ですよ」
必死にがぶり寄るアマテラス様と言い聞かせるように返すツクヨミ様。
完全に姉弟関係が逆転しています。
今日も高天原は平和です。




