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教科書よりゲームで覚えた武将の数の方が多い

 フィッツガルド帝国。

 大陸でも有数の長い歴史を持つ大国ではあるが、その歴史は多くの血に塗れたものでもある。


 元は北方の小国でしかなかった王国が、周辺の小国家群を征服し帝国として新生。

 その成立からして数多の怨嗟を飲み込み生まれた帝国は、常に反乱の危険をはらんでいた。


 それらが溢れだしたのが先帝の時代。

 先々代の皇帝の死を機に各地で発生した反乱。総数では帝国側を大きく上回るその散発的ながらも大規模な反乱に、多くの者はフィッツガルド帝国の終焉を悟ったに違いない。


 しかし終焉は一人の英雄によって防がれた。

 先帝――自らの父を暗殺された新たな皇帝グライオスは、葬儀もそこそこに自ら軍を率い、反乱軍を次々と討伐していったのだ。


 騎兵を中心にしていたとはいえグライオスの進軍速度は常軌を逸しており、反乱軍は大いに混乱した。

 何せ付近の反乱軍が壊滅したという知らせが届けられる頃には、既に眼前にグライオスの軍勢が迫っているような有様だ。


 これはあらかじめ軍勢を分けて進軍させており、グライオス一人が転戦に転戦を重ねていたという裏があるのだが、その事実は彼が英雄(異常)だということを証明することに他ならなかった。

 影武者を用いたという説が未だに根強いのも仕方ないことだろう。


 そうして亡国の危機を回避したフィッツガルド帝国は、グライオスと彼の忠臣により中央集権化が進み、以前よりも強固な基盤を得るに至った。

 そしてグライオスによって整えられた国を継承した皇帝は、今大いに悩んでいた。

 主に日本のせいで。



「ヴィルヘルミナー。君のお父さんちょっと海に捨てて来てくれないか」

「その言葉我がインハルト家への宣戦布告と受け取りました」

「いや冗談だから!? 待って! いかないで! せめてコルネリウスには言わないで!?」


 執務室でぐでっと脱力しながら愚痴を漏らした皇帝でしたが、ヴィルヘルミナさんにその手のジョークは通じなかったらしくすぐさま退室準備を始めています。

 冗談を言う時は時と場所と相手を選びましょう。


「いやコルネリウスがね、私にも日本から送られた資料に目を通せと押し付けてきたんだよ」

「当然のことではないですの」

「うん私も最初はそう思った。だけどね……何で何千年分も歴史の資料があるんだ!? しかも自国史と世界史で別々に!?」


 冒頭でフィッツガルドには長い歴史があると紹介しましたが、実は日本も二千年以上も国家元首が変わらずに国体を維持し続けているという。

 海外の人が聞いたら「またまた御冗談を……え、マジで?」となる長寿国家だったりします。


 これは日本が島国であり外敵があまり侵略してこなかったこと。

 そして最上位に天皇を置きながらも、実際の支配は摂政や幕府が行うという二重構造だったためだと言われています。


 つまり支配者がやらかして倒れても天皇が健在なら次の支配者が現れる。

 とりあえずそこに居てくれれば国が維持されるという、日本人自身も何かよく分からんけど凄い結束力をもたらしているのが天皇という存在なのです。


 さらにいうと日本でも大規模な内乱と言える戦国時代には、そこら中で戦争してるのに人口が増えるという謎の現象が起きたりしています。

 日本人はデリケートとか言われてる割に生命力は凄いのかもしれません。


「いやでも数千年前に文明が誕生したとか外交に関係ないだろう。なのにコルネリウスは全部読めって言うんだよ」

「関係なくても話のタネになるかもしれませんわよ。話が上手い人間というのは話題が豊富なものですもの」

「そういうのが面倒くさいからコルネリウスに押し付けたんだけどなあ」

「だから見抜かれて押し付け返されたのでしょう」

「なるほど」


 ヴィルヘルミナさんの言葉にものすごく納得して見せる皇帝陛下。

 もっとも押し付け返したというのは語弊があり、インハルト侯は自分でもちゃんと資料に目を通していますし、今更交渉を投げ出すつもりもありません。

 つまりはただの嫌がらせです。


「それじゃあ真面目にやるけど、どうせなら日本人の生の声を聞きたいからカガトを貸してくれないかい?」

「これ以上カガトに負担をかけないでください。私の友人のミィナでよければ頼んでみますけれど」

「へえ。ウェッターハーン商会のご令嬢だったね。顔を繋いでおくのもいいかもしれないな」


 そう言ってミィナさんを呼び寄せることに乗り気な皇帝陛下でしたが、実際にミィナさんと対面してそのフリーダムっぷりに「こいつ勇者の同類だ!?」と後悔することになるのでした。


 今日も異世界は平和です。

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