鮮血の公爵(笑)
国会議事堂。
一口に国会と言っても通常国会とか臨時国会とか色々あるのですが、詳しく説明するのはめんどくさいのでウィキペディアでも参照してください。
たまにウィキペディアとアンサイクロペディアを間違える人が居ますが、このお話自体がアンサイクロペディアみたいなものなので間違えても問題ありません。
「総理。やはりリィンベルさんは国で保護すべきでは無いでしょうか」
唐突にそんな提案をしてきたのは、野党の中でも弱小なところの党首です。
確かにリィンベルさんはダークエルフ、こちらの世界には存在しない種族です。
保護すべきという意見には説得力があります。
「内閣総理大臣安達くん」
「はい。確かにリィンベルさんに限らず異世界から来た方には危険が予想されます。そのことを鑑みて護衛をつけていたのですが……」
言い淀む総理を見て野党党首が内心でほくそ笑みます。
言い方からして護衛が役に立たない事案が発生したに違いありません。
それを聞き出したら、あとは無責任に他人の責任を追及するだけの簡単なお仕事です。
「グライオスさんを襲った暴漢はプロレス技の実験台にされ、リィンベルさんを拐おうとした工作員は幻術をかけられ最寄りの派出所に出頭し、エルテさんに近付いた身元不明の男はオオアリクイにじゃれつかれて重傷を負いました」
『……』
総理の報告に国会が静まり返ります。
確かに護衛は役に立っていませんが、役に立たないベクトルが斜め上でした。
責任追及しようにも何を追及したらいいのか分かりません。
ちなみにシーナさんを拐おうとした勢力も居ましたが、偶然居合わせた安達くんに返り討ちにあいました。
結果シーナさんが惚れ直し安達爆発しろ状態ですが、アマテラス様のリア充爆破すら謎回避した安達くんなので人間の呪詛ではまず爆発しません。
「えー、それでは……」
「……フフフ」
会議を続けようとしたところに、不気味な笑い声が響き渡ります。
「召喚返し等という小賢しい策を用いる故に介入してみたが、何と弱き者たちばかりか」
いつの間にか国会の中心に黒い衣装を纏った男が立っていました。
美しい顔は青白く、口からのぞくのは針のように長い歯。
どう見てもまともな人間ではなく、議員たちの間に緊張が走ります。
「ククッ、恐いか人間ども。我が名はグラウゼ。魔界の三軍の一つを率い、鮮血の名を冠する公爵なり! さあ、愚行の代償を払うが良い!」
「はい、ちょっと通りますよー」
「ギャー!?」
――なんぞ?
魔界の公爵とやらが見栄をきったと思ったら、不意に白装束の少女が現れて公爵が悲鳴をあげ始めました。
一瞬で変わった空気に議員たち呆然です。
「……アマテラス様」
『ええー!?』
そんな中でも冷静な安達くんの言葉に議員たちが絶叫します。
国会にまさかの主神降臨。もう全員椅子から降りて正座でお出迎えです。
何人か正座した上で土下座していますが信仰の証です。
決してやましい事があるわけではありません。
「あ、ごめんね。召喚返ししたら変なのが割り込んできたから心配で確認に来たの」
「そうでしたか。お気遣い痛み入ります」
「ギャアーーーー!?」
のほほんとした空気で会話するアマテラス様と安達くん。
その後ろでは鮮血公(変なの)がのたうち回っています。
どうやらグラウゼさんは吸血鬼だったようです。
いかに苦手な太陽光に耐性があっても、太陽神の前では塩をかけられたナメクジも同然です。
「んー、とりあえずこの呪いがかかった剣没収」
「そ、それは我が公爵家に伝わる家宝!?」
「あとこの首飾りも魔力がありすぎて危ない!」
「それは娘が誕生日にプレゼントしてくれたー!?」
プスプスと焦げて煙をあげるグラウゼさんから容赦なく危険物を取り上げるアマテラス様。
何かもうグラウゼさんが可哀想になってくる光景です。
「うん、こんなもんかな。じゃあまたねー」
やることが終わるなりさっさと帰ってしまうアマテラス様。
どうやらまた来るつもりのようです。何をしに来るつもりなのでしょうか。
「……グ……あぁ……」
そして残されたのは色々剥ぎ取られたグラウゼさん(魔界の公爵)
俯いてるので顔は見えませんが、声からしてマジ泣きしています。
「今の内にリィンベルさんに服従の呪いでもかけてもらいましょうか」
そしてそんなグラウゼさんに容赦なく追い討ちをかける安達くん。
……今日も日本は平和です。




