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話中のおっさん率の高さ

 ドワーフ王国。

 竜王山の地下にあるこの国は、長きに渡り食料不足という大きな問題を抱えていた。


 地下では農業も難しく、必然的に家畜の類を育てるのも難しい。

 日の光がない状態でも育つ植物や、それを飼料とした家畜も普及したが、それでも大飯食らいのドワーフを満足させるには足りなかったのだ。


 自然その食糧自給を他国からの輸入に頼ることになるわけだが、それでも問題は出てきた。

 地下通路の入口は何処も内陸部にある。

 遠く離れた海でとれる海産物を新鮮な状態で運ぶのは、どうしたって難しかったのだ。


 別にそれで誰が困るかと言えば、魚が食いたい一部のドワーフが困るだけなのだが、その一部であった時のドワーフ王はどうにかできないものかと考えた。

 そして目をつけたのが、ドワーフ王国内の舟運にも使われている地底湖だ。


 地底湖には淀みはなく少ない種類ではあるが生物も棲みついている。

 ならばこの地底湖は見えないだけで海にも通じているに違いない。


 そうして調査を続けたドワーフ王は海のほうへと続く水流を見つけ、舟が通れるように掘り進めた。

 誰も本気にしてくれないので自分で掘った。

 一年ほど経つと見てられなくなった臣下たちも加わって掘った。

 さらに一年経つと噂を聞きつけた魚好きなドワーフたちも加わって掘った。

 最終的に暇があるドワーフたちも何かよく分からないけど加わって掘り続けた。


 そうやって無計画に掘り続けた結果辿り着いたのがフィッツガルドの漁港の近くだったのは、偶然かそれともドワーフ王の執念故か。


 ともあれこうして海からの水上輸送が可能となったドワーフ王国では、比較的新鮮な海産物が手に入るようになったのである。



「あと最近じゃ淡水魚の養殖なんかもやってるね。最初はうまくいくはずないって酔狂扱いされてたんだけど、これが意外に成功したから驚いたよ。まあやってみれば案外何とかなるってのは、さっきのドワーフ王が証明してるしね」

「なるほど。ドワーフのみなさんはチャレンジ精神に溢れてますね」


 後先考えないともいう。

 そんな話をしながら料理の下ごしらえをするデンケンさんとバーラさん。

 小市民なジュウゾウさんと違って、ドワーフなバーラさんはあまりデンケンさんが元侯爵の貴族様だとか気にしていないようです。


 ちなみに先日読者から「デンケン候の『候』は侯爵の『侯』だから『候』だと誤字でそうろう」というつっこみをいただきました。

 それだけなら「ああまた作者が誤字ってるよ」とうっかり八兵衛並みにやらかす作者を笑って終わる話なのですが、事はそれでは終わりません。


 皆さん書籍版の「異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました」を手にお取りください。

 持ってない人はこの作品の29話にあたる「結婚は人生の墓場とか言ってみたい(独身)」がほぼそのまま書籍化されているのでそちらをご覧ください。

 そして本を持ってる人は193ページを開いてその最後の行を声に出して読んでみましょう。


「(略)私はフィッツガルド帝国のデンケン候の子で名はローマンという」


 りぴーとあふたみー。


「私はフィッツガルド帝国のデンケン『候』の子で名はローマンという」


 ×候→〇侯

 ……やっちまったなあ!


「失礼する」


 さて、そんな作者が三日ほど頭抱えた事件は置いといて、開店時刻になったばかりの店に珍しくすぐにお客さんが来ました。

 ドワーフの皆さんは大体昼時か夜に来るので、この時間帯に来るのはほとんどが外部からの人間のお客さんです。


「いらっしゃい……」


 そう思いながら顔を出したジュウゾウさんでしたが、そのお客さんを見て言葉の途中でフリーズしました。


「……」


 なんかしかめっ面のおっさんでした。

 眉間に生まれつきかと思うほど深い皺できてるし、口元は真一文字に結ばれてるし、目は合っただけでごめんなさいと謝りたくなるほど鋭いしで、子供が見たら間違いなく泣き出す前に逃げだします(現実から)。


「……ませ。こちらのお席へどうぞ」


 しかしジュウゾウさんがフリーズしたのは現実世界においては一瞬のことであり、すぐさま再起動すると何事もなかったかのように案内を始めました。

 さすがのプロ根性です。

 さりげなくこの恐いおっさんを人目につかない隅っこの席に案内するのもさすがです。


「おやあ? コルネリウスじゃないか」


 しかし席への案内が終わるなり、下ごしらえを終えて顔を出したデンケンさんがお客の顔を見て驚いたように声をあげました。


「久しいなアルフレート。本当に料理人の修行をしているのだな」

「なんだい、今更噂を聞いて確かめに来たのかい。君にしては行動が遅いなあ」

「おまえと違って私はまだ暇ではないのだ」


 お客さんはヴィルヘルミナさんのお父さんのインハルト侯でした。

 デンケンさんの言葉に顔をしかめていますが、不機嫌なわけではなく「おまえは隠居してやりたいことやってるから羨ましいな」という友人への気安い感情を出しているだけです。


「それで、ご注文は何にするんだい?」

「カレーとやらを頼む」

「おいおい。君は胃がそんなに頑丈じゃないだろう。顔色もよくないし、カレーはまた今度にしてもっと消化にいいものにしなさい」

「……余計な世話を」


 そんな気安い友人のような会話をするデンケンさんとインハルト侯ですが、傍から見ると空気読めないおっさんの発言でイラついているおっさんにしか見えないのでジュウゾウさんが震えあがっています。


「まーた変なのが来たね」


 そしてそんな様子を他人事のように見ながら下ごしらえを続けるバーラさん。

 さすがドワーフ。細かいことは気にしません。



「まったく。結局朝昼晩と三回来るとは思わなかったよ」


 時は流れてジュウゾウさんの店も終わり深夜と言っていい時間帯。

 インハルト侯がとっている宿をデンケンさんは訪ねていました。


「余生を楽しんでいるようだな」

「余生って。よしてくれよ。まるで年寄りみたいじゃないか」


 そう文句は言いつつも楽しいことは否定しないデンケンさんに、インハルト侯は安堵したように息を吐きました。

 傍からだと不機嫌そうに鼻を鳴らしたようにしか見えませんが。


「しかしわざわざ僕の様子を見るためだけに来たのかい? 君もさっさと跡継ぎに任せて隠居したらいいものを」

「そうもいかん。このままでは娘の婿もろくに見繕えん。おまえの息子には期待していたのだが」

「ああ。でもローマンは無能ではないけれど迂闊だからね。誰かが首根っこを押さえてないとやらかすと思うよ。そういう意味では君の娘さんは実に相性がよさそうだったんだけどね」


 そういうデンケンさんですが、一般的な貴族男子は自分から首根っこ掴まれに行こうとは思わないので、逆にヴィルヘルミナさんにとってもローマンさんはおあつらえ向きの相手だったとも言えます。


「それに日本との交渉が始まるんだろう? 国交ができればローマンも帰ってくるだろうし、案外元の鞘に収まるんじゃないかい」

「そう上手くはいかんだろう」


 ローマンさんの惚れっぽさを知ってるだけあり楽観的に考えるデンケンさんに対し、娘の頑固さを知っているインハルト侯は首を横に振りました。


「アレは女にしておくにはもったいないほどに気が強い。非はなくとも醜聞と共に切れた縁を自分から繋ぎ直そうとはしないだろう」

「うわあ。典型的な嫁ぎ遅れタイプだね」


 友人故の遠慮ない言い草に今度は本気で顔をしかめるインハルト侯。

 でも言われたことはもっともなので反論できません。


「まあ最悪立場の弱い貴族の次男か三男あたりを捕まえてくればいいんじゃないかい。君の娘なら夫が頼りなくてもうまくやるだろう」

「それでは家は保てても娘が幸せになれんだろう」

「欲張りだなあ君は」


 そのままいかに娘が可愛いかと語るインハルト侯と、酒をあけながら自分も可愛くない息子より娘が欲しかったなあと思うデンケンさん。

 今日も異世界は平和です。

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