コンビニよりうどん屋のほうが多いという謎
うどん。
練った小麦粉を太く長く切った麺料理ですが、その起源には諸説ありハッキリとしたことは分かっていません。
いずれにせよ中国から渡ってきた小麦料理や製粉技術が元になったのは確かなのですが、当の中国にうどんをみせたら「え? 何それ? うどん? ……じゃあ当て字で烏龍麵アルね」とその起源の解明になんの貢献もない対応をしてくれてたりします。
今中国人が「~アル」とか本当に言うわけないだろと思ったあなた。
実は昔は中国人に日本語を教える際に、助動詞の変化などを理解させるのが難しかったので最後に「ある」か「ない」をつけて肯定否定を示せと教えていたという説があります。
つまり中国人は昔は本当にアルアル言っていた可能性が微レ存。
ちなみに現代でもうけ狙いで敢えてアルアル言ってる中国人もたまにいます。
「で、今度はセルフうどんかよ」
そんなうどん屋さんでトレイ片手に呆れたように言うのは、外務大臣な柳楽くんです。
口ぶりとは裏腹に、トレイの上にはうどん以外にもおにぎりとか天ぷらとかおかずてんこ盛りです。
セルフのうどん屋は安いところだとかけうどん百円とか普通にあるので、ちょっと贅沢しても大丈夫です。
でも肉うどんとかになるといきなり五百円越えたりします。
解せぬ。
「最近はチェーン店でも美味くて安いところが多いですからね。シーナさん。何か欲しいなら取りましょうか?」
「あ、すいません。ではそちらのかきあげを」
柳楽くんに答えながらも、シーナさんがうどんの乗ったトレイを片手で支えられないのを察してトッピングを代わりにしてあげる安達くん。
こうして何気ない気遣いが重なって、シーナさんの安達くんへの好感度が上がっていくのです。
カンスト? 愛に限界はありません。
「それで、今回は何の集まりなのだ?」
テーブルにつくなり、今日の本題を聞くグライオスさん。
手元の肉うどんは、海老天やらからあげやらを乗せまくり、もはや麺見えねえよ状態です。
この人は確実におかわりするので、この程度のことで驚いてはいけません。
「それについてはローマンさんから」
「実はフィッツガルドが異世界間の通信魔術を開発しまして、日本国と交渉したいと私に仲介を依頼してきました」
「……」
「……月込。リアクションはどうした?」
「いや、やりませんよ? あと私の名前は鳴海です」
柳楽くんに聞かれて、胡乱な目を向けながら大根おろしうどんをすする、リアクションはしないけどつっこみはするつっこみのお兄さん。
どうやらその他大勢という外殻から内部に取り込まれたことにより、異常への耐性が上がったようです。
「しかしフィッツガルドですか。できればガルディアがよかったのですが、大国といち早く交渉できると考えればそれほどマイナスではないと考えましょうか」
「あちらもそう考えて、日本と関わりのある国々の代表という形でフィッツガルドが出てきたそうです」
「つまり今回の交渉で決まったことは他の国にも徹底されるって事か。なんだ結果的には願ったり叶ったりじゃねえか」
そう納得しながらうどんの汁に茄子の天ぷらをひたす柳楽くん。
あげものはサクサクなまま食べるか汁を染み込ませて食べるか悩みどころです。
「しかしそうなるとあちらの言葉の習得は間に合いそうにありませんね。皆さんの協力を得て研究してはいますが、専門的な話をするには心許ないですから」
「誰か通訳たてないといけねえな」
「なるほど。つまりわしの出番だな!」
「脅す気満々だ!?」
親指を立てて満面の笑みを浮かべるグライオスさんに、大体何やらかすか察してつっこむ鳴海くん。
ある意味信頼されています。
「脅すなどと人聞きの悪い。少し息子の成長を見るべく試練を与えるだけではないか」
「どのみち私とグライオス陛下はダメでしょう。立場的に」
「む? わしは半分冗談だったが貴様もか? 仲介を依頼されたのだろう」
温玉ぶっかけをすすって言うローマンさんに、不思議そうに返すグライオスさん。
ちなみに外国人にぶっかけうどんのことを話すと「BUKKAKE!」と一部過剰反応しますが、深く考えてはいけません。
意味が分からない人がこの作品の読者にいるとも思えませんが、もし居たらできればそのままの貴方でいてください。
「依頼は受けましたが、それ以上は私心が混じらないとは言えませんからね。それにあちらの交渉人として、皇帝陛下ではなく父上かインハルト候あたりが代理で来るかもしれませんし」
「……いかんな。デンケンはともかくインハルトのやつはダメだな」
どうやらヴィルヘルミナさんのお父さんは、現皇帝だけでなくグライオスさんすら相手をしたくないほどの腹黒のようです。
さらにローマンさんなどはやらかした過去があるので、合わせる顔がないどころか言葉だけで殺される可能性すらあります。
「となるとリィンベルさんが妥当でしょうか。知識と経験が豊富で多少のことでは物怖じしませんし。相手の意図も読んで伝えてくれるでしょう」
「だな。そういう方向で承認を得るように勧めていくか」
こうしてフィッツガルドとの交渉対策は決まっていきました。
なおシーナさんが「なんでそこで私を頼ってくれないんですか」と珍しく拗ねていましたが、指摘したら間違いなく面倒くさくなるのでスルーされました。
今日も日本は平和です。