顔を貸す(物理)
「商人コワイ」
魔王様の御座す魔王城。
その玉座の間にて、なんか魔王様が体育座りで玉座の上に丸まっていました。
「……あの。魔王様。デュラハン呼び出しに応じて参上したのですが」
一方その様子を見て少しひきながら声をかけるデュラハンさん。
もう見なかったことにして回れ右をしたいところですが、仕事なのでそういうわけにもいきません。
「あ……ようきたねデュラハン。ちょっと顔貸して」
「どうぞ」
「ありがとう……って顔渡してどうすんねん!」
「ヘブシッ!?」
デュラハンさんが差し出してきた頭を受け取り、すかさずノリツッコミを決める魔王様。
地面に頭を叩きつけられ、デュラハンさんの体がビクッとしました。
「落ち着きましたか?」
「うん。落ち着いた!」
そして地面に頭を転がしたまま聞くデュラハンさんと、笑顔で伸びをする魔王様。
何かよく分からないやり取りですが、多分意味とかないので深く考えてはいけません。
「それで、何を落ち込んでいたのですか?」
「いや、例の運送業のことについて協力したいって子が来たんやけど、気付いたら拠点とか路線まで決められてて完全に主導権持ってかれた」
「恐ッ!?」
普段が普段なのでただの愉快な姉さんにしか見えない魔王様ですが、逆に言えば魔族に囲まれても愉快でいられるほど押しが強くあくも強いのです。
そんな魔王様を相手に慣れていない商談とはいえワンサイドゲーム。
ミィナさんの商売における理不尽っぷりがよく分かります。
「まあ私たちは人間界で商売をするノウハウもコネもないので、全てやってくれると思えばよかったのでは?」
「それが恐いねん! あんな一方的に話し進めとんのに内容はWIN-WINやから恐いねん! い、一体どこに落とし穴が……」
「いや、仮にも魔王様相手に詐欺働くわけがないでしょう」
そんなことをしたら契約など知ったことかとばかりに脳筋魔族に潰されるのが目に見えています。
あとデュラハンさんがさらっと魔王様に仮とかつけちゃってますが、言われた本人が気付いてないので問題ありません。
「というかそんなことで私を呼び出したのですか?」
「あ、それはまた別。アンタが今はりついとるフィッツガルドの勇者くんのことなんやけどね」
ついに来た。
そう確信しデュラハンさんは内心でガッツポーズを取りました。
魔王様が人間界の会議に出席し、フィッツガルドとの同盟関係も公にされたのはついこの間。
つまりフィッツガルドの勇者であるマサトくんを監視する意味はなくなったのです。
ようやくあの変人と変神から解放される。
そう安堵し息をはいたデュラハンさんでしたが。
「あの子何やらかすか分からんから、引き続き監視頼むって皇帝から依頼が来た」
「嫌です」
魔王様のお言葉にコンマ一秒で即答するデュラハンさん。
上げ落としなんて鬼畜の所業です。これには真顔で反逆のデュラハンです。
「嫌ですて。今まで通りやれば……」
「嫌です」
「もう事情も説明していいから、騙す必要もないし」
「嫌です」
「隣の家に囲いができたってさ」
「嫌です」
魔王様が何を言っても無表情に拒否し続けるデュラハンさん。
ボケにつっこみをいれないとかかなりの重症です。
「ああ……、うん。何かすまんかった」
「嫌です」
いよいよヤバいと感じ始め冷や汗をかく魔王様と、頑なに拒否し続けるデュラハンさん。
今日も魔界は平和です。
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「……暑い」
一方高天原。
まだ五月だというのに、アマテラス様が扇風機全開にして畳の上でへたれています。
「いや、早すぎるでしょう。今からそんな調子で夏はどうするのですか」
「ツクヨミ。白夜の反対って極夜っていうらしいよ」
「それやったらいくら私でも本気で怒りますよ」
日本極夜化計画を真面目に考えるアマテラス様に、口元をひきつらせながら言うツクヨミ様。
どうやらツクヨミ様はまだ全力ではなかったようです。
本気出したらサ〇ライトキャノンとか撃つかもしれないので注意が必要です。
「だって暑いものは暑いんだもん! 何で太陽登ってくるの!?」
「地球が自転してるからですよ」
暑さのあまり自分の存在意義すら投げ捨てそうになっているアマテラス様に、神様にあるまじき科学的な回答をするツクヨミ様。
大丈夫。科学を研究してると逆に神様いると確信しちゃうってアインシュタインが言ってた。
「つまり地球の自転を止めれば……」
「反動で地表のものが全て吹っ飛ぶからやめてください」
そしてついには世界崩壊シナリオを発動させそうになるアマテラス様ですが、冷静沈着百合好きなツクヨミ様によって阻止されました。
今日も高天原は平和です。