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風呂回(女の子が入ってるとは言ってない)

 お風呂。

 日本人にとっては毎日入ってもいいくらい日常的なものですが、外国では「お風呂? シャワーでいいだろ」と理解を得られづらい習慣でもあります。

 そのため海外でいろんな経験をしようと希望に満ちた状態でホームステイに行った日本人が、お世話になった家庭で「風呂入りすぎだろ」とダメ出しをされる事態が多発していたりしています。


 そこで素直にごめんなさいと謝ってしまうのが日本人のSAGAですが、むしろおまえら風呂入らなすぎなんだよと逆ギレしても許されるはずです。

 人は時には譲ってはいけないこともあるのです。


「ふー。やはり風呂はいいものだね」


 そしてそんな風呂にアヒルさんのおもちゃと一緒に入浴している金髪の貴族青年。

 安達くんの家に居候している異世界人の一人なローマンさんです。


 ちなみに以前中世ヨーロッパではお風呂文化が廃れたという話をしましたが、それ以前の古代ギリシャローマ時代にはむしろ公衆浴場が整備されていたり混浴文化もあったりと、平たい顔族と仲良くできそうなほどお風呂が日常的なものであったとされています。

 つまり中世から現代にかけてのヨーロッパが異常なだけなのです(偏見)。


『えー、おくつろぎのところ申し訳ないんですけど……』


 そんな完全リラックスモードなローマンさんの眼前に、唐突に窓っぽいものが開いて見知らぬ青年の顔が話しかけてきました。


「……おかけになった電話番号は」

『電話じゃないですから。いや電話みたいなものですけども。というか馴染んでますね!?』


 フリーズしつつもお約束な反応をするローマンさんにつっこむウィンドウズ青年。

 むしろつっこむべきはお風呂に入っているのが女性陣でないことかもしれませんが、この作品にそんなものを求めてる人はいないので問題ありません。


『繋がりましたのカガト?』

『あ、繋がったは繋がったんですけど今は障りが……』

「え?」


 窓の向こうから聞こえてきた聞き覚えのある声に焦るローマンさん。

 しかしローマンさんが覚悟を決める前に、その人は窓の向こうからローマンさんを覗き込んでしまいました。


『久しぶりですわね。ローマ……』

「……」


 風呂につかってマッパなローマンさんを。


『……』

「……」

『……貧相な体ですわね』

「再会した第一声がそれ!?」


 しかし冷静にローマンさんの体を品評する女性。

 頬がちょっと赤くなってるのは気のせいです。



 唐突に異世界から空間ぶち抜いて窓っぽいのを開いてきたのは、ヴィルヘルミナさんとカガトくんの主従でした。

 内密に話がしたいと言われ、急いで風呂からあがり自室へと戻るローマンさん。

 普段は頼りになりませんが、その冷静な対処は流石の侯爵子息です。


「なるほど。異世界の門を開く前段階として、話ができるだけの繋がりを作る魔術を編み出したと」


 事情を聞いて椅子に腰かけた状態でゆっくりと頷くローマンさん。

 湯上りなのでホッカホカです。


「しかし何故最初に私に繋げてきたんだい?」

『ローマンさんの私物や髪の毛なんかが残ってたので、それを媒介にしたんですよ。前皇帝陛下でもよかったんですけど、日本との仲介役を頼むには色々と問題があるので』

「なるほど。納得だ」


 カガトくんの説明に再び頷いて返すローマンさん。

 グライオスさんの前皇帝という重要すぎる立場もそうですが、何よりあの自重しないおっさんを仲介役にしたらまとまる話もまとまらなくなるので、程々な社会的地位があり恋愛が絡まなければ有能なローマンさんは正に適役と言えます。


「分かった。では安達閣下には私から話を通しておこう。しかしフィッツガルドがね……」


 自国が異世界外交において優位に立ちそうなことは歓迎すべきものの、日本としては最初はガルディア王国と交渉したがっていたことを思い出しどうしたものかと考えるローマンさん。

 しかしすぐに自分にできるのは仲介だけだと思い直し、余計なことは考えないようにしました。

 貴族の息子とは言っても、所詮学生で未成年なローマンさんにできることなどたかがしれているのです。


「そういえばヴィルヘルミナはまだそこにいるかい?」

『はい? 席を外してますけど、呼びましょうか?』

「いや、いい。ただ一つ言伝を頼まれてくれないか?」

『……何でしょう?』


 怪訝な顔をするカガトくんを前に、大きく息をつくローマンさん。


「すまなかったと、そう伝えてくれ。君に一切の責はなく、私が愚かだったと」

『……』


 真剣な顔で頭を下げてそう言ったローマンさんに、無言で返すカガトくん。

 カガトくんもローマンさんとヴィルヘルミナさんの事情は聞いていましたが、とても目の前の青年が婚約者を裏切りどこの馬の骨とも知れない少女との恋愛に溺れたうつけものには見えなかったのです。

 実際ローマンさんの惚れっぽさはともかく、惚れた後にあそこまで暴走したのは大体アフロディーテ様が悪いので仕方ありません。


『そういうことは直接伝えた方がいいのでは?』

「ハハッ。もっともだけれど、あわせる顔がないよ。それに、彼女は強いから僕のことなんてとっくに振り切ってるだろう。単なる自己満足に付き合わせることもないさ」

『分かりました。確かに伝えておきます』


 そう言って異世界間の窓を閉じるカガトくん。


『……強くても傷つかない人なんていないと思うんですけどね』


 その呟きは、誰にも聞かれることなく窓は閉じました。


 今日も日本と異世界は平和です。


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