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妖精さんというともう・ワ・さんしか浮かばない

 ケロス共和国の西に位置する小さな村。

 最近お米の栽培が軌道に乗ったり何故か役人や軍人に「あそこには関わるな」と言われるその村で、今日も農業少女なアスカさんは平和に暮らしていたのですが。


「……」


 無言で家の隅っこを眺めるアスカさん。


『えっほえっほ』


 そこには隊列を組んでお饅頭を運んでいる手のひらサイズの小人たちの姿。

 みんな葉っぱの服やらどんぐりの笠の帽子やらを身に着けていて、もうメルヘンチック全開です。


「……スクナヒコナ様が子供産んだ!?」

「いやあいつ男だろ。相手も居ないだろ」


 アスカさんの叫びに冷静につっこむサロスくん。

 一瞬ついにスクナヒコナ様がアスカさんに手を出したのかと思ったのは内緒です。


「いや男で一人でも産めるぞ?」

「産めるの!?」


 一方さらに冷静に訂正を重ねるスクナヒコナ様。

 日本の神様はシングルファーザーが子供を育てるどころか産むのも楽勝なのです。

 例えば三貴子などは、黄泉から帰ったイザナギ様が川で禊をしているときに何柱かの神様と一緒にぽぽぽぽーんと産まれています。


「え? じゃあイザナミ様って厳密には三貴子の母親じゃなくね?」とか言ってはいけません。

 一応キクリヒメ様という神様の仲介で夫婦喧嘩は調停されたとされる場合もあるのでセーフです。


「まあそれはともかく。その端っこにいるのは妖精だな」

「ほー。さすが異世界ですね」

「いや。そんな無防備に姿晒してる妖精とか普通居ないからな」


 さすが異世界と納得するアスカさんと、異世界でもそんな簡単に妖精見かけねえよとつっこむサロスくん。

 異世界だってそんな毎日がファンタジーなエブリデイではないのです。


「え? じゃあ何でこの子たち呑気にお饅頭運んでるんですか?」

「普通は見えないか見えてても人間には気付けないからな。聞いて驚け。見えるのは俺の神気を浴びて何か鋭くなっているせいだ」

「わー凄い」

「……」


 親指立てて自慢げなスクナヒコナ様と素直に感心するアスカさん。

 そして「何かって何だよ」と謎の力覚醒に嫌な予感しかしないサロスくん。

 サロスくんは歳の割には安定志向なので、何かよく分からない力みたいな余計なフラグは欲しくないのです。


「というかアレ神棚にお供えしてたお饅頭ですけどいいんですか?」

「いいんじゃね? アマテラスもお供え一つくらいで文句言わないだろ」


 そう言うスクナヒコナ様ですが、アマテラス様が事態に気付いたら間違いなく「お饅頭とられた!?」とショックを受けます。

 数の問題ではありません。とられるのが問題なのです。


「それにああいう妖精は、住み着けば家やら物やらの細かい修繕をしてくれるからな。なのにこっちが気をきかして代価を渡そうとすると逃げるから、こうやって取られても見逃すのが正解だと思っとけ」

「へー、謙虚なんですね」

「いや謙虚ならお供え持ってかないだろ」


 そんな会話をしている内にも妖精さんたちは家の隅っこを行進し続け、某猫と鼠が喧嘩してるアニメみたいに小さなドアを開けて壁の中に入っていきました。

 何でそんなドアがあるのに今まで気付かなかったんだとつっこんではいけません。

 世の中には気付いていても気付かないふりをしなくてはいけない事案が多数存在するのです。

 仮面だけつけて変装してるつもりの変態もとい正義の味方とか。


「しかし妖精って本当に居るんだな」

「え? サロスくんも見たことなかったの?」

「だから普通見かけないって言ってるだろ」


 サロスくんの言うとおり、いくら異世界でも一般人はそんなファンタジーな存在とは一生縁がないまま生きるのは当たり前です。

 人魚だって普通は魚の焼ける臭いにつられて浜辺に打ち上げられたりしないのです。


「でもこの村って他より異界とか『そういう場所』に近いぞ。西の森にダークエルフ隠れ住んでるし」

「マジで!?」


 意外と身近に危険物が存在してることを知り叫ぶサロスくん。

 別にダークなエルフだからって危険な存在ではないのですが、西に住んでるダークエルフは昔人間との戦争に負けて引き篭もった経緯があるので大体間違っていません。


「というかアスカを召喚したのもそのダークエルフだぞ。なんか人間に復讐するとか面倒なこと言ってたから、接触する前にサルタヒコが保護したけど」

「え? そうなんですか? じゃあ今度菓子折りでも持って挨拶に行った方がいいでしょうか」

「やめろ。藪を突くな」


 余計な事すんなというサロスくんですが、アスカさんを召喚したダークエルフたちはリィンベルさん曰く威勢のいいヘタレなので、むしろアスカさんが来ても逃げ惑う可能性もあります。

 数百年単位で引き篭もっているので未知のものに耐性がないのです。

 そんな状態でどうやって復讐とかするつもりだったのか疑問が残りますが、ヘタレだから仕方ありません。


「まあ物騒なのは若いのだけで、他のダークエルフは穏健派みたいだから行っても大丈夫だろ。何なら米もってくか? エルフにも評判良いらしいぞ米」

「おお。お米の良さが分かるなら仲良くなれますね」

「……」


 ピクニック気分でダークエルフの村訪問準備を着々と進めていく一人と一神に、もう諦めて無言でその様子を眺めるサロスくん。

 今日も異世界は平和です。


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