今更内容に関係ないとつっこまれるサブタイトル
フィッツガルド帝国。
新皇帝の即位により揺れるかと思われていた大国ですが、色々と問題は起きつつも意外に安定しており未だに大陸一の強国の地位は死守しています。
もっとも問題が問題(貴族やら悪徳商人やら)を抑えている状態なので、一歩間違えれば一気に崩れる可能性もあります。
毒をもって毒を制すどころか、爆弾が毒を吹っ飛ばしてる状態なので、このままではいつか国ごと爆破されるのは確定とも言えます。
「やあ。よく来てくれたねカガト・カガくん。日本風に言うなら加賀カガトくんだったかな」
「……は、はい」
そんなフィッツガルドの皇帝陛下に呼び出されて、直立不動で冷や汗かきつつ何とか答えるカガトくん。
内心で「助けてお嬢様!」と既に泣きが入っています。
ちょっと前まで普通の学生だったカガトくんに、今の状況はプレッシャーが大きすぎます。
「そう硬くならないでくれ。今日は礼を言いたくてね。転移魔術の研究、中々形になっているそうじゃないか」
「き、恐縮です」
色々と問題のあった転移魔術ですが、あれから改良を重ねドラゴンストライクを回避し、さらに燃費の向上にまで成功しています。
異世界の魔術史に名が残るほどの偉業なのですが、本人は「どうせドラ〇エのパクリだし」と事の重要性が分かってるつもりで分かってません。
「ついては君の功績を称えて、領地と爵位を与えようと思ってね」
「え? 困ります」
「……私も即位してからそれなりに経つけれど、褒賞与えようとして困られたのは初めてだよ」
それなりに欲望やら野心があるなら狂喜乱舞するであろう報酬に、困りますと答えられてむしろこっちが困ってる皇帝陛下。
つづらを選べと言われたら迷わず小さいほうのつづらを選ぶ小市民なカガトくんは、そんな分不相応なもの貰ったら落ち着けないと本能的に察しているのです。
「えーと、そうだ! 俺はヴィルヘルミナお嬢様の部下ですから、褒賞はヴィルヘルミナ様が受け取るのが妥当かと」
「うん。この場で考えたにしてはいい回避方法だね。僕としても他の貴族に余計な隙を見せずにすみそうだ。だが断る」
「何故!?」
どっかの漫画家が言いそうな断り方に思わず素で返すカガトくん。
ちなみに皇帝陛下がそんな言い方をしたのはただの偶然で、別に某奇妙な冒険を読んだことがあるわけではありません。
「いや。君を陪臣にしておくのは勿体なくてね。要は僕の直属にならないかというお誘いだよ」
「え? お断りします」
「……君つくづく私の予想を裏切ってくるね」
まさかの即答に呆れる皇帝陛下。
どうやらカガトくんの優柔不断は女性問題に関することだけであり、仕事関連は割と即断即決のようです。
「何故? と一応聞かせてもらえるかな」
「俺はヴィルヘルミナ様に仕えると決めました。ならヴィルヘルミナ様が辞めろと言わない限りはヴィルヘルミナ様に仕え続けます」
「何その頑固なまでの忠誠心。最初に仕えた主に仕え続けるって、君たちは鳥の仲間か何かかい?」
ちょっとくらいは靡いてもいいだろうにと思いつつ、ヴィルヘルミナさんが羨ましくなってくる皇帝陛下。
一応マサトくんのほうは皇帝直属という扱いになっていますが、あのフリーダム勇者様に忠誠とかいう概念があるはずがありません。
「分かった。無理強いしても仕方ない。でもこちらからの依頼くらいは受けてくれないかな?」
「俺にできることなら」
「君たちの世界との扉を開く魔術の研究だ」
「……はい?」
言われたことの意味が分からず間の抜けた声を漏らすカガトくん。
そんなカガトくんに皇帝陛下はにっこりと得体のしれない笑みを浮かべます。
「そんなこと研究しなくても、勇者くんがいるでしょう?」
「それを言い出したらそもそも君の転移魔術の研究にも意味がなくなるよ」
「……つまり転移魔術と同じように、万人が使えるレベルの技術に落とし込めと?」
現状ほぼ確実に異世界の門を開ける唯一の人間であるマサトくんですが、逆に言えばマサトくんに何かあれば門を開ける人間が居なくなってしまいます。
あのマサトくんをどうこうできる存在が居るのか疑問が残りますが、そもそもこちらの意図通りに動いてくれるわけがないので、どちらにせよ代替技術は必要です。
「幸いマサトの召喚に使った陣はそのまま残してある。召喚魔術に関する資料も開示しよう」
「何故俺なんですか? 俺より優秀な魔術師は他にいくらでも居るでしょう」
「居ないわけではないけれど、君は自分を過小評価しすぎだね。まあ強いて言うなら機密の問題かな。何せ一番召喚魔術に詳しいであろうマサトの召喚に関わった連中は、皇帝の権威失墜を狙っていた不穏分子だ。他の魔術師に頼もうにも、一番優秀な魔法学園に居る連中は倫理観とかぶっ飛んでるからね」
「確かに」
皇帝陛下の言葉に納得するカガトくん。
カガトくん自身も学園の魔術師に「君異世界人なんだって? 研究のためにちょっと指一本ちょうだい!」とか言われて追いかけられたことがあるので、彼らの倫理観とかまったく信用していません。
「そういうことなら引き受けます。俺としても他人事ではありませんし」
「ありがとう。お礼に領地と爵位を……」
「いりません」
どうあっても自分を繋ぎ止めたいらしい皇帝陛下の提案をぶった切るカガトくん。
この決断力が異性にも発揮されれば女難のほとんどはなくなるでしょうに、これだからヘタレは。
「チッ! ならヴィルヘルミナに言いつけて無理やりやってやる。ヴィルヘルミナー! 君の部下が生意気でさヴィルヘルミナー!」
「お嬢様ー! 信じてますからねヴィルヘルミナお嬢様ー!」
子供のように大声でヴィルヘルミナさんの名を叫ぶ皇帝陛下とカガトくん。
隣室で待っていたヴィルヘルミナさんが顔を真っ赤にして殴りに来るまで後十五秒。
今日も異世界は平和です。