いつも食べてるわさびが偽物だと知ったときの衝撃
「困ったな」
「困りましたね」
ケロス共和国のとある村。
元は田んぼであり今は菜の花が咲き乱れる農地を眺めながら、スクナヒコナ様とアスカさんが全然困ったようには見えない様子で呟きました。
「今度は何をやらかすつもりだ」
「あ、ひどいサロスくん。まるで全ての問題は私たちが発端みたいな言い方して」
「少なくともここ最近の騒動の原因はアスカかチビ神が原因だ」
サロスくんの指摘にぷりぷりと怒るアスカさんですが、実際こんな田舎の村で大きな問題が起きるとしたら、外的要因てんこもりのアスカさんとスクナヒコナ様が発端になるのは間違いありません。
よくも悪くも田舎というのは変化が少ないのです。
「この間大統領がうちに来てたでしょ?」
「世間話のようにありえない話ふってきた!?」
大統領なんてサロスくんのような一般市民からしたら雲の上の存在です。
アスカさんの肩の上であくびしてるスクナヒコナ様もある意味雲の上の存在なのですが、細かいことを気にしてはいけません。
「なんかお米を増産したいらしくてね、技術指導のために何人もこの村に派遣させてくれって言われたの。困るよねえ。そういうのは村長さんに言ってくれないと」
「俺たちが勝手に受け入れるわけにもいかないしなあ」
「……」
何か常識的なことを言ってる少女と神様ですが、必要とあらば間違いなく村長さんぶっちぎってことを進めます。
名前どころか存在すら作中に出てこない村長さんにできることなどありはしないのです。
「それに他のところでもお米作るようになったら、この村の特徴がなくなっちゃいますよね」
「そうだなあ。何かで他の村と差別化を図らないとなあ」
「いや、何で差別化しなきゃなんないんだよ」
どのようにして村おこしをするか悩むアスカさんとスクナヒコナ様ですが、地元住人のサロスくんはどうでもよさげです。
歳の割に現実見えてるサロスくんは、食べていけるだけの収穫があればそれで満足なのです。
「香辛料とか育てられたら一気にお金持ちになれるんですけどね」
「この土地じゃあ温度や湿度の関係で難しいな。同じ米でもち米いってみるか」
「あ、いいですね。おもち食べたいですおもち」
時には同じ量の砂金と交換されていたという話もあるだけに、香辛料の類はそうどこでも大量に生産できるものではありません。
というかそんな簡単に栽培できるならマゼランさんもわざわざ世界一周とかしてません。
「おもちってなんなんだよ」
「えーと……」
一方おもちが何なのか分からなくて首を傾げるサロスくん。
その問いにアスカさんは他に似たような商品が思い浮かばないので、どう説明したものかと悩みます。
「もち米っていう粘りのあるコメをすり潰してペースト状にした食べもんだな」
「そうそう。それでよくおじいちゃんとかおばあちゃんがのどにつまらせて死ぬんだよ」
「何だその物騒な食べ物」
スクナヒコナ様の説明に続き、何故かもちの暗黒面を説明し始めるアスカさん。
でも実際僅かな死の危険性を知りながらもちを食べるのをやめない日本人は、さすがの食い意地のはりっぷりだと言わざるを得ません。
河豚を食べると知った外国人に「奴ら正気か!?」と頭の中身を疑われるのは伊達ではないのです。
「美味いから仕方ないな」
「美味しいから仕方ないですよね」
「仕方ないで容認できるリスクじゃねえ!?」
美味しいから問題なしな日本人と、そこまで食い意地はってない異世界人の溝がここに。
今日も異世界は平和です。