異世界オネエ物語3
メルディア王国。
隣接するガルディア王国と同じ帝国を祖とするこの国は、精強な騎士団を多く抱えることで有名です。
そんな騎士団の一つに超大型新人の入団が決まり、多くの人の注目を集めています。
「はあ、この歳で新人扱いされるなんて思わなかったわ」
以前よりちょっとお高い酒場でチーズをつまむオネエ。
今日は非番なので私服ですが、相変わらず筋肉で服が膨張しています。
「……新人扱いは初日で終わっただろう」
そんなオネエと卓を囲むのは、同じく非番なので髪を下ろし上品なお嬢様といった装いのグレイスです。
実はオネエのためにいつもより気合いをいれてお洒落をしていたりします。
無駄な努力なのは本人が一番分かっているのでつっこんではいけません。
「だって『歓迎会だ』って言って集団で襲いかかってきたのよ。反撃するに決まってるじゃない」
結果は言うまでもなく。
竜殺しに普通の人間が束になっても敵うはずがありません。
入団初日から団員たちに『アニキ』と慕われることになったオネエでした。
ちなみに武器を破壊しまくるオネエのために王より宝剣が授与されましたが、その騒動のときに見事に折れました。
もうこれには似たようなエピソードを持つクー・フーリンさんも笑うしかありません。
「しかしユキが団長にも気に入られて安心したぞ。あの人も中々に癖のある方だからな」
「……」
「ユキ?」
突然黙りこんだオネエに、グレイスが首を傾げます。
「……私あの人苦手なのよ」
「そうなのか?」
ちなみに団長はオネエには及びませんが、人として間違ってるレベルの馬鹿力を誇る女傑です。
オネエが現れるまで団中最強だったあたり、少なくとも生まれた性別は確実に間違っています。
「人としては好きよ? だけどねぇ……顔から話し方から雰囲気まで死んだ妻にそっくりなのよ」
「!?」
グレイスに衝撃が走ります。
男勝りで口が悪く女を捨てているとしか言いようがない団長。
ノーマークだった団長がまさかのオネエ争奪戦(絶望)のトップに躍り出てグレイス大焦りです。
このままでは場合によってはオネエがノーマルに戻ってしまうかもしれません。
……あれ? 問題無くね?
「そ、その奥方はどのような人だったのだ?」
「んーそうねぇ。底抜けに明るくて、考え無しなくらい一途で、男勝りなお転婆かしら。私は私で昔はチビで痩せてて女の子みたいだったから、性別反転コンビってよくからかわれたわね」
どうやらオネエは妻の遺言(呪詛)を受ける前からオネエの素質はあったようです。
むしろ奥さんの存在がそれを加速させていたのは気のせいでしょうか。
「腕っぷしも強くて、成人するまでは力じゃ勝てなかったわね」
「なるほど。それは確かに団長の同類だな」
成人=十五歳だと思い納得するグレイス。
しかしオネエは日本人なので成人=二十歳です。
恐ろしい奥さんですね。
「まあこれからも適度に距離をとって……」
「なんだ? 新たな我が部下は随分と冷たいな」
「……」
いきなり背後から声をかけられオネエが固まります。
「……だ、団長?」
「おう。皆の愛しい団長様だぞ」
そこに居たのは赤い髪を結い上げた長身の女性。
美人といえる顔立ちですが、その顔が髪に負けないくらい赤くなっています。
「団長……酔ってるわね」
「酒場で酔わずにどこで酔えってんだ」
ムハーっと酒臭い息を吐きながらオネエに後ろからもたれかかる団長。
女の魅力ZEROですが、どうやら本当に奥さんに似ているらしくオネエは動揺しています。
「ちょっと団長!? 離れなさいはしたない!?」
「アッハッハ、はしたないか。固いことを言うなよ女じゃあるまいに」
「心はいつでも乙女なのお”!?」
オネエの抗議は途中で遮られました。
……団長の唇によって。
「あー、団長は酔うと誰彼構わず口付けをしてまわってな……」
遅すぎる忠告をするグレイス。
どうやら本当に日常茶飯事なことらしく、想い人の唇が奪われたというのに冷静です。
「……ひ」
「ひ?」
「酷い! 酷いわ!? マコト以外の女に許したことなんて無かったのにぃっ!?」
「ユキ!?」
団長を引き剥がし全力で逃亡するオネエ。
目元にはキラリと光る涙が。どうやらオネエの乙女心は甚大なダメージを負ったようです。
ちなみにオネエが走り去る際に酒場の壁に人型の穴が空きましたが、こういうのは何故か翌日には直っているので問題ありません。
「アッハッハ。でかい図体して生娘みたいなやつだな」
「……」
一方オネエを泣かしておいて愉快そうに笑っている団長。
はからずも国すら扱いに困るオネエを支配下に置く女が誕生した瞬間でした。
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「…ねえツクヨミ。あの人回収した方が良くない?」
一方高天原。
日々成長を続けるオネエに危機感を覚えたアマテラス様が、今まで控えていた最終手段を行使するか悩んでいます。
「何故今さら?」
「だっておかしいもんあの人!? このまま強くなって無茶されたら世界のバランスが!?」
「スサノオよりはマシでしょう」
「……スサノオよりはマシだけど」
冷めた口調でいうツクヨミ様につられて静かに答えるアマテラス様。
姉兄にここまで言われるスサノオ様が可哀想に思えますが、かつてやらかしまくった事を考えると当然なので仕方ありません。
「って、そういう問題じゃなくて!?」
「姉上。仮にアレを回収するとしましょう。その後日本にアレを解き放つおつもりですか?」
「……」
何も言えずに黙り混むアマテラス様。
一石二鳥どころか一石二竜を体現するオネエです。
現代日本で平穏に生きてくれるはずがありません。
「……まいっか! バランス崩れるの異世界でこっちじゃないし」
「そうですね」
責任をぶん投げたアマテラス様と、姉を誘導してほくそ笑むツクヨミ様。
……今日も高天原は平和です。




